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Ⅶ/傭兵の生活①

2020年10月9日

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目次
この記事を書いた人
青貴空羽

小説家にして極真空手家。
更に2年間の英国留学不治の病うつ病になった経験、オタク文化を発信する為ブログTwitterYouTubeを始める。

Twitter:@aokikuunovel

本編

 恐い。
 胸元のロザリオを、きつく握り締めた。

 痛かった。
 だけどその痛みが、まだ自分がこの場所にいることを実感させてくれた。
 さらに握ると、十字の先端が掌に食い込むのを感じた。

 血が、溢れるのを。

「っ……」

 痛みに呻き、そして思わず、その手を見つめた。
 つ、と一滴の血が筋を作って手首まで零れていた。

 不思議だった。
 暗くても、闇でも、何もかも黒く塗りつぶされていてもなお、それは赤いことをこちらに伝えていた。
 赤い。
 血。
 祖母が自分を、守ってくれた。

 アレ=クロア

 ふと、名前を呼ばれた気がした。
 それに顔を上げ、見回す。

 だけど何も見えない。
 夜が深すぎる。
 闇が濃すぎる。
 自分の手足すら、確認することは出来ない。

「……誰です?」

 尋ねるが、それに返答はない。

 空耳かとアレは思い、また眠ろうと布団を首の下まで引っ張り、

【貴女が世界を変えるというなら、力が必要でしょう?】

 聞こえた、今度は確実に。

 それにアレの胸が、激しく脈打つ。

 誰かがこの部屋に、いる!?

「っ……だ、だれ? 誰かいるの!?」

 声をひそめて、だけど布団をのけて周囲に視線を彷徨わせた。
 わからない。
 何も確認できない。
 こんな状態なら、どんなに近くに来られてもわかりようがない……!

 どくん、どくん、と胸が脈打ち、指先と膝が震える。

【夜は貴方の、味方よ】

 まるで自分の心を読んでいるかのようなその言葉に、アレの震えがピタリと収まる。

「……味方?」

【さぁ、きなさい。世界を、変えたいのでしょう?】

「…………」

 その声に導かれるように、アレは立ち上がった。
 不思議だった。
 自然と立ち上がることができて、そして歩くことができた。

 杖を使っていないのに、今まで歩けなかったのに。
 なのにそれを、疑問とも思わないことに。

 物の輪郭すらもわからない暗闇を、アレは歩いた。
 一度も何かにぶつかることもなかった。
 なんらかのドアを開くことすらない。
 まるで本当にそこには、一切合財何もないかのような錯覚すらした。

 本当にその声に、自分が操られているような感覚さえ。

 気づけばアレは、四方に松明が焚かれている部屋にいた。

「…………」

 四つの巨大な石柱が天井を支え、四つの炎がその中心を照らし出している。

 そこにあるのは、一つのせり出した石畳に描かれた――六芒星。

 そしてその周りを描くように二重の円と、間に綴られた理解不能な文字。
 それは、赤い塗料で描かれていた。
 そして炎に照らし出され、光り、浮かび上がって見える。

 それは酷く幻想的な光景だった。

「…………」

 アレは無言で、その中心に立った。

 そして、瞳を閉じる。

 すると再び、声が自分に語りかけてきた。

【さぁ、受け入れなさい。――悪魔の、力をね】

 天から――見るもおぞましき”怪物”がアレの身の上に、降ってきた。

 アレは目を剥き、絶叫をあげる。

「い――いやあああア! いやっいやっいやっ、嫌だ――――――――ッ!!」

「お、おいあんた、落ち着けっ!」

 両腕を、掴まれた。

 捕まった。
 逃げるのを、防がれた。

 絶望的だった。

「ッ!? ひっ……い、いやだッ! 悪魔と契約したくない! 悪魔憑きになりたくない! 誰か、誰かァッ!!」

「落ち着け! アレ=クロア!!」

 ぱんっ、と頬を叩かれた。

「っ……!?」
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