Ⅲ/ただただ不安③

2019年11月9日

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 ベトからの適当な説明に、アレは律義に頷く。

 それにスバルはやれやれ、と肩をすくめていた。

 アレはベトの前のように不用意に動くことなく、周囲の動向を探っているようだった。
 そのため馬車の中では、降ってわいたように妙な緊張感が生まれてしまっていた。
 その中でマテロフは存在感なく、スバルは反応が薄いことにさじを投げさっきまで壁に立てかけていた剣の手入れなど始め、結局消去法でベトが話の口火を切ることになった。

「……えーと、だいじょぶか?」

 アレは無言で、頷く。

 それにベトは苦笑いを浮かべ、

「で、と……俺たちのアジトに向かってんだけど、エルシナって街知ってるか?」

 ぶんぶん、とアレは首を振る。

 ベトは頬を引き攣らせる。なんだこれ?
 ぜんっぜん会話が成立してねぇ。
 だが黙るともっと空気がこもるから、とりあえず話し続けることをベトは選択。

「……俺たちのアジトがある街で、まぁなんもね―街さ。だけどみんな仕事がなくて傭兵ばっかでね。まー、気兼ねはねーし、マナーとかも気にしなくていーから楽は楽だし、やっぱ長年住んでると愛着もわくっていうかさ。わかる? こーゆー気持ち」

「……ようへい?」

 反応した。

 それにベトも、即反応する。
 チャンスは逃さず、女性との会話は相手の興味をいかに引くか!

「そう、傭兵。てかお嬢さんは、傭兵って知らないのか? 金もらって、敵を殺すお仕事なんだけどな」

 ほんのり自慢げな雰囲気を漂わせるのがコツだ。
 女はいつだって、ないモノに憧れる。
 理解できない者をスゴイと思ってやがる。
 だから貴族様だとか土地を持ってる奴の所に嫁ぎやがる。

 バカな生き物だ、そんなもんめんどくさくって息苦しくって疲れるだけだってのに。

「……てきを、ころす?」





「そう、殺すんだ。剣で、ぶすーってな。刺して、切って、首を飛ばす。それで国のみんなが平和に暮らしてく。俺は国の誇りと民のためにそうやって戦って、生きてきてるってわけ」

 こういって、感心しなかった女はいなかった。
 誇りだとか平和だとか、そういう曖昧な言葉は女は大好きだ。
 だから思う存分吐いてやる。

 思う存分、夢を見させてやる。
 だからその代わり、俺に抱かれてくれ。

「剣で、刺す」

 そこでベトは、気づいた。

 反応、していない。
 いやその言い方だと語弊があるか。

 アレは今までの女のように、自分の言葉を聞き、そして驚いたりまったくしていなかった。
 それどころか、感想も、先を促すようなことも、そして自分の話を切り出すような真似すらしていない。

 ただ、こちらの言葉を繰り返している。

 まるで生まれたての、赤子のように。

「――アレ=クロアって、言ったっけ?」

 こくり、とアレは頷いた。

 その視線、変わらない表情からは何も読みとれない。


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