Ⅱ/最悪な出遭い①

2019年11月9日

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 わけがわからず剣と男を交互に繰り返し見るアレに、男は試すように声をかける。

 それにアレは剣をゆっくりと持ち上げようとするが、

「こ、こんな、の……振れ、ない、けど……っ」

「けど、ないよりいい」

「う……う、わっ」

 さらに押し付けるように、鞘も渡される。
 その二つの重量合計2,5キロを持て余し、アレは後ろにひっくり返る。

 その様子に男はケラケラと笑い、

「かかか……で、あんたバイタじゃねぇだろ?」

「……?」

 初めて聞く単語に、アレは剣をとりあえず鞘に収めて横にのけ、疑問符を浮かべる。

 男はボサボサの髪をかき上げ、

「売りやってる女のことさ、売女(バイタ)」

「?」

 これだけ言ってもわからないアレを男は覗き込み、

「娼婦じゃ、ねぇだろ?」

「かっ」

 アレは唐突なその言葉に、むせかえる。
 意味だけは知っていたが、とんでもない言葉過ぎて空気が肺から喉を通って漏れ出ていた。

「あ、当たりっ、前」

「かっかっか、そう怒んなよ」

 男は、楽しんでいた。
 この無知で無垢な少女とのやり取りを。

 そして一通り笑った後、

「で、この村の人間でもない」

 唐突な断定文に、アレはドキリとする。

「……なんで」

「見りゃわかるよ。服装、立ち振舞い、視線に、気品……あんたいい女だ」

 ぐい、と腕を引き、再びアレを立ち上がらせる。

 それにアレは目をむき、怯える。

「ぃ? あ、の……」

「心配すんなって、今すぐ無理やりなんて気、もうねーよ」

 男はすぐに手を離し、そして改めて同じ目線でアレを見る。

 アレは微かにそれに、気圧される。

「あんたの、名前は?」

「――アレ=クロア」

 今度は男の方が微かに、気圧される。
 予想していなかったほど、それは高貴な名前だった。

「……っへぇ、イカすぅ。で、あんたなにやってんの?」

「――なにって?」

「なにって、そりゃあ……」

 そこでガクッ、とアレはくずおれた。
 跪き、そして痛みに呻く。

 それに一瞬男は呆気に取られ、

「と、これは失礼。レディに立ち話をさせただなんて、紳士として礼に失して――」

「…………」

 恭しく一礼する男を、ただアレは感情のない透き通った瞳で見上げるだけだった。

 それに男も軽口を止め、

「……どうしたん?」

 ただ、一言。

「……わたし、普通に歩けない」

 男はそれに、言葉を失った。
 それは男が想像もしていなかったことだった。

 だがしばらくして、言葉の違和感を感じとった。

「……"普通"に?」

「こうすれば、歩ける」

 言ってアレは近くに転がる杖を手にして、全身の力を振り絞り、それを頼りに立ち上がった。

 息を切らし、挑むように。

 その腰には、先ほど与えた剣を差して。

「ハーッ、ハーッ、ハーッ、ハーッ……!

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