Ⅳ/ありふれた傭兵④

2019年11月9日

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 なら、どうする?

 難しい。

 話しかけるか?
 コミュニケーションなら、取れる。
 仕事仲間とも最低限の親しみ、ということは必要だったからだ。
 それに女を口説くときも色々と手管はカードとして持っている。

 だがこの子との関係の場合、それは必要なのか?
 ただ自分が手伝ってやるとか言っただけ。
 こちら側のメリットは特にない。
 ならば親しみもカードも、必要ないのではないか?

 というか、なぜ自分は手伝ってやるなどと言ったのか?

「……ぬー?」

「ん、んん……」

 なんて自問自答を繰り返しているうちに、アレは目を覚ました。
 涙目で伸びをして、そのあと寝ぼけ眼でゆっくり手を下げて辺りを見回し、

「……あれ? ここ、どこ?」

「俺の部屋」

 目を離さず、ベトは応える。

 アレはベトの声に驚いた様子もなくその視線を合わせ、

「――なんですか?」

「え? い、いや……」

 問われ、ベトは視線を外してしまった。

 なに、と言われれば用事はないが、そうだと見てはいけないのか?
 よく、わからない事態だった。
 というかこれだけ至近距離で傭兵を名乗る男に見つめられて、平然としているのがまず信じられなかった。

 アレと接するのは、今までとは勝手が違った。
 色々と驚きや、発見、ペースの変更などが余儀なくされた。
 まさに未知との遭遇と称するに近いものがあった。

 見ると、アレはやたら純粋な瞳でこちらを見ていた。
 それに再び、少し視線を合わせる。

 なにがしたいのか、わからない。





「あのさ……」

「なんですか?」

 まったく同じ、二度目の問い。

 それにベトは、試しにと唇を近付け――

「ていうか、キスすら知らないんだよな」

「?」

 その単語に、アレはただ疑問符を浮かべるだけだった。

 確定。

 アレの知識や経験量は、丸っきり子供だ。
 この子はまだ、女じゃない。

「……ふぅ」

 それに、ベトはそんな気がかなり失せてしまった。
 というか、気が引けてしまった。
 代わりのように、

「――あんたは、世界を変えたいとか言ってたな」

 その言葉に、アレの瞳に力が籠もる。

「はい」

「それで、この世界を? 具体的に? どう変えたいって思ってるんだ?」

 質問に一転、アレは瞳を伏せる。

 それにベトは、眉を寄せる。
 なんだ、口だけか?

 そう思いかけた時、

「……悲しい世界は、いや」

「――――」

 軽く、背筋が凍りつくような感覚を味わった。
 それはベトが今まで、聞いたことがない類の言葉だった。

 まるっきり希望や様々な正の感情が含まれない、嘆きや哀しみのみで塗り、固められた言葉。

 さながら氷になる直前の、雪のような。

「……悲しい世界って、どんな世界だよ」

 思わずベトは、聞き返していた。
 それはベトにとって初めての経験だった。
 色々な計算やメリットを抜きにした、純粋な好奇心。

 アレは顔を上げて、こちらを見た。
 その瞳にベトは、深い底の知れない闇を見た気がした。

「誰も救われない、どうしようもない世界」


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