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Ⅵ/ありふれた傭兵④

2020年10月9日

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目次
この記事を書いた人
青貴空羽

小説家にして極真空手家。
更に2年間の英国留学不治の病うつ病になった経験、オタク文化を発信する為ブログTwitterYouTubeを始める。

Twitter:@aokikuunovel

本編

 なら、どうする?

 難しい。

 話しかけるか?
 コミュニケーションなら、取れる。
 仕事仲間とも最低限の親しみ、ということは必要だったからだ。
 それに女を口説くときも色々と手管はカードとして持っている。

 だがこの子との関係の場合、それは必要なのか?
 ただ自分が手伝ってやるとか言っただけ。
 こちら側のメリットは特にない。
 ならば親しみもカードも、必要ないのではないか?

 というか、なぜ自分は手伝ってやるなどと言ったのか?

「……ぬー?」

「ん、んん……」

 なんて自問自答を繰り返しているうちに、アレは目を覚ました。
 涙目で伸びをして、そのあと寝ぼけ眼でゆっくり手を下げて辺りを見回し、

「……あれ? ここ、どこ?」

「俺の部屋」

 目を離さず、ベトは応える。

 アレはベトの声に驚いた様子もなくその視線を合わせ、

「――なんですか?」

「え? い、いや……」

 問われ、ベトは視線を外してしまった。

 なに、と言われれば用事はないが、そうだと見てはいけないのか?
 よく、わからない事態だった。
 というかこれだけ至近距離で傭兵を名乗る男に見つめられて、平然としているのがまず信じられなかった。

 アレと接するのは、今までとは勝手が違った。
 色々と驚きや、発見、ペースの変更などが余儀なくされた。
 まさに未知との遭遇と称するに近いものがあった。

 見ると、アレはやたら純粋な瞳でこちらを見ていた。
 それに再び、少し視線を合わせる。

 なにがしたいのか、わからない。

「あのさ……」

「なんですか?」

 まったく同じ、二度目の問い。

 それにベトは、試しにと唇を近付け――

「ていうか、キスすら知らないんだよな」

「?」

 その単語に、アレはただ疑問符を浮かべるだけだった。

 確定。

 アレの知識や経験量は、丸っきり子供だ。
 この子はまだ、女じゃない。

「……ふぅ」

 それに、ベトはそんな気がかなり失せてしまった。
 というか、気が引けてしまった。
 代わりのように、

「――あんたは、世界を変えたいとか言ってたな」

 その言葉に、アレの瞳に力が籠もる。

「はい」

「それで、この世界を? 具体的に? どう変えたいって思ってるんだ?」

 質問に一転、アレは瞳を伏せる。

 それにベトは、眉を寄せる。
 なんだ、口だけか?

 そう思いかけた時、

「……悲しい世界は、いや」

「――――」

 軽く、背筋が凍りつくような感覚を味わった。
 それはベトが今まで、聞いたことがない類の言葉だった。

 まるっきり希望や様々な正の感情が含まれない、嘆きや哀しみのみで塗り、固められた言葉。

 さながら氷になる直前の、雪のような。

「……悲しい世界って、どんな世界だよ」

 思わずベトは、聞き返していた。
 それはベトにとって初めての経験だった。
 色々な計算やメリットを抜きにした、純粋な好奇心。

 アレは顔を上げて、こちらを見た。
 その瞳にベトは、深い底の知れない闇を見た気がした。

「誰も救われない、どうしようもない世界」
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