ⅩⅥ/育ての親②

2020年4月4日

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「…………」

「いやーぶったまげたね。俺も長年戦場で生きてきたが、あんな光景を見たのは初めてだったな。そのまま嬢ちゃんは戦場を歩き続け、降り注ぐ矢はその先々で止まり、まるでモーゼのように出来た安全地帯を俺たちは進み、制圧した。まさに嬢ちゃんは勝利の女神って奴だったなァ」

 沈黙。
 それしかベトには出来ることがなかった。

 籠城戦で、まさかそんな派手な演出をしているとは思わなかった。
 ならば目撃者の数は、それこそ半端ではないだろう。

 魔女狩り、という単語が頭によぎる。

「……それで?」

「? それでもなにも、大勝利さ。勝利の美酒は美味かったぜ? お前も惜しいことしたもんよ。で、お前の方はハントスまで何しに行ったんだ?」

「いや……まぁ、なんでもねぇ」

 話す気が、失せる。
 わざわざ足を伸ばした意味があったのかどうか、今となっては怪しいところだった。

 異常に疲れが、両肩にのしかかる心地だった。
 しかしスバルはそんなベトの様子には気づかず、

「なんでもない? なんでもなくて、わざわざハンストまで行くようなタマかお前が? え?」

「別に気まぐれさ。もう話はねえなら、部屋に戻るわ」

「……おい、ベト?」

「じゃあな、あんたも毎晩毎晩不摂生してねぇでたまには早く寝ろよ。もういい加減、いい歳――」

「ベト」

 なんでもない、しかし唐突にして素朴なその呼びかけに、ベトは思わず向けていた背を止め、振り返っていた。

 スバルが真剣な瞳で、こちらの顔を覗き込んでいた。
 まるでさっきと、立場が逆。

 それにベトは少し、戸惑う。
 それはベトが苦手な、育ての親としての顔だったから。

「……ンだよ、さっきから」

「お前、なにか隠してることあるだろう? なんだ? マズイことなのか? あるなら、わしに話してみろ」

「……ンでもねぇよ」

「ならお前がそんなに悩むタマか? 普段から大概のことを投げ出してる奴がよ?」

「るせぇな、放っとけよ」

「ベトよォ」


 いきなりスバルが、自分の両肩を掴んだ。
 それにベトは反射的に手が出そうになって――なんとか抑えた。

 なんなんだ、いきなり?
 意味がわからないし、こういう第一次接触は苦手とするところだった。

 だけどスバルは、真剣だった。

「わしァな……ずっと、考えてたんだよ。わしァ、傭兵だ。戦場で、敵を殺して生きていくしか出来ない男だ。だからわしはお前を、そうやって養ってきた。だがな……わしァお前を、同じようには生きて欲しくァ、なかった」

「……なに言ってやがる」

「まァ聞け。だがわしがお前に教えてやれることァ、それしかねぇ。気づけばお前はわしの真似をして、わしの剣を勝手に振ってやがった。最初は止めたが、しばらくして下っ端を模擬戦で倒すようになって、わしも諦めたよ。だがな、それは諦めただけだ。

 お前本当に、今のままでいいのか?」

 胸を棒で、突かれたような心地だった。
 一瞬だが言葉が、出てこなかった。

「……なにいってやがる」

 苦笑いでそう言って、再び背を向けた。
 そのままドアの向こうへ行こうとすると、スバルが肩に手をかけてきた。

 その感触に、心がざわめいた。
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