Ⅸ/弓兵③

2019年12月6日

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 だが、この無愛想ぶりにはどうしたものかと考えていた。

「…………」

 道中、一切なにも喋らない。

 アレは道など知らないから、マテロフのあとについていくしかない。
 そして基本的に受け身だったから、相手の出方待ちだった。

 だがマテロフからは、決してコンタクトを取ろうとはしない。
 それどこから、視線すらこちらに寄こさない。

 真っ直ぐにいく先だけを見据え、淡々と歩を進める。
 それはどこか、機械じみてさえいた。

「ハァ……ハァ、ハァ……!」

 アレは初めて歩く道に、悪戦苦闘していた。

 マテロフの歩みは、容赦ない。
 スタスタと、健脚ともいえる働きを見せている。

 対してアレは、もちろん杖をついての一歩一歩だ。
 さらに体力はひとの三分の一以下、あっという間に20メートル、離された。

「っ、う……ま、マテロフ、さん……!」

 思わず、アレは呼びかけた。

 マズイ、と直感した。
 これ以上離されると、姿を見失ってしまうかもしれない。
 そうすれば、自力で街に行くことも、そして戻る自信すらない。

 止まってもらわなくては。
 自分は家に帰ることすら、出来はしない。

 杖が、地面を擦った。

「ッ……!」

 受け身も何もあったものではない。
 アレはまともに、頭どころか顔――それも鼻から、地面に衝突する。

 ガツン、という聞くも痛い音。

「――――!」

 アレは声すら出せず両手で鼻を押さえ、そして静かに呻いた。

 のたうちまわることすら、許されない。
 まるで自分がみの虫かなにかにでも、なったような錯覚。

「わかった?」


 無機質な声が、頭上から聞こえた。
 だけど痛くて痛くて、いまは応えることすらできなかった。

 だけどマテロフだというのは、当たり前に理解は出来た。

「ぅう、ぅ……」

「貴女は自分のことが、わかってない。世界を変える? そんなことが出来るのは、神様だけ。あなたは神様じゃない。もっといえば、人間ですらない。人間が歩いて、勝手に転んで、鼻血を出す? 哀れね。みの虫以下といってもいいわ」

 マテロフの言葉には、一切の容赦というものがなかった。
 呻き鼻を押さえそこからボタボタと鼻血を零す銀髪の少女を、立った状態で身を屈め、耳元で囁くように。

 残酷な、それは絵図だった。

「わかったかしら? ちょっと演説上手で、甘え上手で、バカな男たちにチヤホヤされて、三歳児以下の剣の振り方が出来るようになったからって、勘違いしない方がいい。貴女は、何者にもなれない。何事も、成せない。ただ生きて、ただ死ぬ。男の慰みモノになるかどうかぐらいね、違いは。だけど幸運ね、貴女は。私がその運命を、こうして教えてあげるんだから。

 そういう知識があるかどうかっていうのは、大きな違いよ」

「…………」

 マテロフの言葉に、アレは反応が乏しくなっていった。
 震えも、呻きも消えて、ただ押さえた手の間からぽたぽた、と鼻血が伝うだけだ。

 弓兵は、なおも語りかける。

「わかったかしら? だったら身の振り方を、考えなさい。今だったら私がいい職場を用意してあげられるわ。それこそ帽子の仕立て屋から、殿方に御奉仕して差し上げるお仕事までね。私としては後者の方をお勧めするわ、なにしろ貴女みたいな片手落ちの見た目だけいいお嬢様にはうってつけ――」

「よい、しょ」

 まったく、意に介さず。
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