仮初の日常③

2019年11月17日

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「……ごめんなさい。白柳(しろやなぎ)君のこと、嫌いじゃないんだけど友達としてしか見れません」

 申し訳なさそうな口調ではあったがハッキリと言い切り、深々と頭を下げた。
 僕はしばらくその姿を眺めたあと、緊張の糸が切れたように肩を落として長い溜め息をつき、頭を下げてうなだれた。

 彼女がもう一度小さな声で、ごめんなさい……と言った。

 僕は
「いや、僕の方こそごめん。追いコン中なのにこんなところ呼び出しちゃって」
 と言ったあと、
「ちゃんと聞いてくれてありがとう。……僕はもう少し夜風に当たってから戻るから、美香ちゃん先に中戻っておいて」
 と促した。

 彼女は最後にもう一度だけ頭を下げて、そそくさと中で続いている追いコン会場に戻っていった。

「……はぁ」

 溜息一つ。

 僕はガードレールに寄りかかり、夜空を見上げた。
 気味が悪いくらいの白い満月が煌々と輝いていた。
 あんまり白くてあんまり明るくて、表面のクレーターの黒い影がまるで骸骨の窪み(くぼみ)みたいに浮かび上がっていた。

 満月のせい、だったのかな……と僕は思う。





 昔何かで読んだ本によると、満月というものは、どうも人間に普段ではありえない興奮状態をもたらすらしい。
 凄惨な事故や猟奇的事件が起こるのは、累計上満月の夜が圧倒的に多いらしい。
 僕も詳しくは知らないが、狼男の伝承もその辺から来ているのではないかと勝手に思ってる。
 今日の自分の告白も、満月がもたらした気の迷いだったと言いたげに。

 まあ、けじめさ……

 そう自分に言い聞かせて、今の告白の痛手を誤魔化そうとした。
 ここで煙草でも吸ってればまた格好くらいつくのかと思い、どこか所在無い思いをした。
 なんとなく足をぶらぶらさせ、ぼんやりと周りを見回す。
 誰も彼も笑顔で、酔っ払ってるヤツも沢山いて、酷く居心地が悪くなった。
 誰も彼も楽しそうに週末の自由な時間を謳歌しているのに、こんな不幸を絵に描いたような人間がここにいてはいけない気がした。

 ふと、目の前の居酒屋に目を向けた。
 そこから響いてくる声も楽しそうで、時折切間(きりま)らしき笑い声が混じってくるのを聞きとめて、僕は決心した。
 ――家に戻ろう。
 こんな状態で今更追いコンに参加する気にもなれない。
 先生にはあとで言い訳すればいいだろう。

 そう思って、未だ喧騒が続く居酒屋から、桐峰筋(きりみねすじ)から背を向けた。
 地面に置いていたベージュのトートバックを肩にかけて、歩き出す。
 もう振り返らず、バスに乗って真っ直ぐに帰るつもりだった。

 いくら予想がついた、そして三連敗目の告白だとはいえ、こんなことに慣れるということはやはりなかった。

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