エアホッケー

2020年1月10日

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 いや、それは別に険悪な雰囲気だったという意味じゃない。
 こちらは常に喋りかけてるし、相手も頷いたり首を振ったりと反応は示しているんだけど、会話らしい会話にはならなかった、という意味なのだ。

 でもその反面、案外これが彼女のリズムなのかも知れない、と感じている自分もいた。
 彼女は必死だった。
 真剣だった。

 その姿はこちらを嫌っているとか楽しくないとかというよりも、今を一生懸命頑張ろうとする生きる姿勢に思えた。
 その姿に、僕はなんとなく親近感を覚えていった。

 そして本日四つ目のゲーム。
 体育会系の僕にとって、二人以上でゲーセンに来たらこれは外せない。

 そんなわけで、次はエアホッケーをやることにした。

「行っくよー」

 機械に百円を入れ、出てきたパックを軽く打つ。
 こーん、こーん、と緩い音を立ててそれは跳ね返り、真ん中のラインを越えて彼女の陣地に入ったのを目で確認

 何かが、爆発した。

「…………え?」

 その瞬間、そうとしか考えられないような思考をも停止させるものっすごい音が――自軍のゴールから、響いた。
 こと、と音がして、パックが僕の腹の前に吐き出される。

 彼女を見る。
 ラケットを持った右腕が、振り切られた形になっていた。

 こっちの様子に気付いた彼女は僕に向かって今日初めての、しかし背筋が凍るような不敵な笑顔をよこした。
 それに僕は、乾いた笑みを浮かべることしか出来なかった。


 すかーん、という高音。
 すこーん、という低音。

 すっかーん、という快音。
 すこかこーんっ、という轟音。

 自軍のゴールには、気持ちのいい音という音がひたすらに響き続けていた。
 残像すら残す"超"高速のパックが、筐体自体を揺らすほどの衝撃で叩き込まれる。
 その様は見ていて清々しささえ感じるものもあった。

 あれからも彼女の快進撃は続いた。
 どうやら彼女はこういう運動系に強いようだ。
 それも僕にとって意外なことだった。

 僕も遊び気分を切り替え、真剣になった。
 目を光らせてパックの動きを追い、全速で手足を動かしている。

 だが、その小回りが利く小さな体が右に左に高速でポジションを取り、全身をバネのようにしならせてから打ち出されるスピード感溢れる、見た目からは想像もつかないような重いショットの前に、僕はなすすべもなく押されまくってしまっていた。

 今もまた僕の右手のラケットを潜り抜け、自軍のゴールに快音が響いた。
 向こうにいる彼女が不敵に笑う。
 若干の悔しさを伴って全力でパックを弾くが、その倍する速さで叩き返された。
 ぐむぅ……

 結果。

 二十七対ゼロという、あまりにも無惨なスコアに終わった。

「……つ、強いねぇ」
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