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七十六話「巨獣 vs 武人」

2020年10月7日

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目次
この記事を書いた人
青貴空羽

小説家にして極真空手家。
更に2年間の英国留学不治の病うつ病になった経験、オタク文化を発信する為ブログTwitterYouTubeを始める。

Twitter:@aokikukose

本編

 間彦六がリングの上に立っていた。

 純白の空手衣をまとい、手には指定されたオープンハンドグローブを着け、自然体を保っている。
 それを、観客が異常な静けさの中見つめていた。
 先ほどの試合の余韻が、まだ残っているのだ。

 凄まじかった。
 誰もが、言葉を失っていた。
 とても高校生の試合とは、思えなかった。

 いや――あれを空手の試合だとは、思いたくなかった。
 見る者を圧倒する、気迫。
 勝ちに拘る異常なほどの、執念。
 それに伴う、醜悪さ。

 どれも武道性や神聖さ、スポーツマンシップなど、どこにも見受けられない。
 ただ勝ち負けに――相手を壊す事に、特化した行為。

 まるで人の――自分の身にも潜んでいるかもしれない凶暴性、獣性。
 それを無理やり見せつけられた心地だった。
 それにみな動揺し、今の静寂に繋がっていた。

 夕人は、担架で病院に搬送されていった。
 勝った天寺も、終わった途端意識を失い、同じく担架で医務室に運ばれていった。

 まるで、勝者が誰もいないような試合だった。

 いや、事実あの試合に、勝者はいなかったのだろう。
 ルールの上では天寺の勝ちだろう。

 だが、勝った天寺は、満足だったのだろうか?
 天寺は何を想って、あそこまで鍛え上げたのだろう。

 あれが……本当の意味での、戦いというものなのだろうか?

 想いは重く、石のように会場に落ち込んでいた。
 そこに、対戦相手の、盟帝会のチャンピオンという男が花道から現れた。
 スモークが焚かれ、スポットライトが照らし出す。

「あ……」

 それを見て、反対側のセコンドに待機している慎二が、声を上げた。

 アメリカ人だった。

 スキンヘッドの、黄色い眉に青い瞳を持った男。
 しかしそれ以上に、その体つきが目を引いた。

 体が、テレビのボディービルダーのように節くれだっていた。
 身長が、あの間六彦よりも頭一つ分は高かった。
 おそらく身長は2メートル近く、体重は130キロを越えているのではないか。
 しかも慎二が声を上げたのは、それが見たことのある男だったからだった。

 対戦相手は、アメリカのバーリトゥード団体の大手、RTB(ローリング・サンダー・バトル)のミシシッピ州のチャンピオンである、レナード=バルタスだったからだ。
 今でこそぴちぴちの空手衣をまとい、腰にも黒帯が巻かれているが、全然似合っていない。
 着こなせていない。
 見る者が見れば、一発でわかる。

 ――なにが、盟帝会だ。
 夕人の一件といい、お前のところには選手がいないのではないか?

 レンタル空手め……。

 慎二は唇を噛み締めた。脳裏に三枝の言葉が蘇る。

『ルールですが、リベンジマッチは空手ルールで行いますので、間さんの時は総合格闘技(なんでもあり)ルールでどうでしょうか? そちらは世界チャンピオンでもあるわけですし、観客のみなさんもそれでしたら飽きずに楽しめると思いますので――』

 間先輩……。

 すがるような目で慎二がリング上に視線を上げようとした、その時。
 哲侍がリングの下から声を上げようとしてるのが見えた。

 何を言うのか――

「六彦~、1分で倒せー。倒せんかったら、二度と道場にこんでいいぞ~」

 野次。

 それを聞いた時慎二は、これは応援でも激励でもなく野次だと思った。
 今から戦う選手によりにもよって、そんなプレッシャーを与えるようなことを師範ともあろう人がかけるだろうか?

 間六彦はそれに口を押さえて苦笑すると、大仰に拳で十字を切り、

「押忍」

 ゴングが鳴った。
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