七十六話「巨獣 vs 武人」

2021年11月7日

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目次

本編

 間彦六がリングの上に立っていた。

 純白の空手衣をまとい、手には指定されたオープンハンドグローブを着け、自然体を保っている。
 それを、観客が異常な静けさの中見つめていた。
 先ほどの試合の余韻が、まだ残っているのだ。

 凄まじかった。
 誰もが、言葉を失っていた。
 とても高校生の試合とは、思えなかった。

 いや――あれを空手の試合だとは、思いたくなかった。
 見る者を圧倒する、気迫。
 勝ちに拘る異常なほどの、執念。
 それに伴う、醜悪さ。

 どれも武道性や神聖さ、スポーツマンシップなど、どこにも見受けられない。
 ただ勝ち負けに――相手を壊す事に、特化した行為。

 まるで人の――自分の身にも潜んでいるかもしれない凶暴性、獣性。
 それを無理やり見せつけられた心地だった。
 それにみな動揺し、今の静寂に繋がっていた。

 夕人は、担架で病院に搬送されていった。
 勝った天寺も、終わった途端意識を失い、同じく担架で医務室に運ばれていった。

 まるで、勝者が誰もいないような試合だった。

 いや、事実あの試合に、勝者はいなかったのだろう。
 ルールの上では天寺の勝ちだろう。

 だが、勝った天寺は、満足だったのだろうか?
 天寺は何を想って、あそこまで鍛え上げたのだろう。

 あれが……本当の意味での、戦いというものなのだろうか?

 想いは重く、石のように会場に落ち込んでいた。
 そこに、対戦相手の、盟帝会のチャンピオンという男が花道から現れた。
 スモークが焚かれ、スポットライトが照らし出す。

「あ……」

 それを見て、反対側のセコンドに待機している慎二が、声を上げた。

 アメリカ人だった。

 スキンヘッドの、黄色い眉に青い瞳を持った男。
 しかしそれ以上に、その体つきが目を引いた。

 体が、テレビのボディービルダーのように節くれだっていた。
 身長が、あの間六彦よりも頭一つ分は高かった。
 おそらく身長は2メートル近く、体重は130キロを越えているのではないか。
 しかも慎二が声を上げたのは、それが見たことのある男だったからだった。

 対戦相手は、アメリカのバーリトゥード団体の大手、RTB(ローリング・サンダー・バトル)のミシシッピ州のチャンピオンである、レナード=バルタスだったからだ。
 今でこそぴちぴちの空手衣をまとい、腰にも黒帯が巻かれているが、全然似合っていない。
 着こなせていない。
 見る者が見れば、一発でわかる。

 ――なにが、盟帝会だ。
 夕人の一件といい、お前のところには選手がいないのではないか?

 レンタル空手め……。

 慎二は唇を噛み締めた。脳裏に三枝の言葉が蘇る。

『ルールですが、リベンジマッチは空手ルールで行いますので、間さんの時は総合格闘技(なんでもあり)ルールでどうでしょうか? そちらは世界チャンピオンでもあるわけですし、観客のみなさんもそれでしたら飽きずに楽しめると思いますので――』

 間先輩……。

 すがるような目で慎二がリング上に視線を上げようとした、その時。
 哲侍がリングの下から声を上げようとしてるのが見えた。

 何を言うのか――

「六彦~、1分で倒せー。倒せんかったら、二度と道場にこんでいいぞ~」

 野次。

 それを聞いた時慎二は、これは応援でも激励でもなく野次だと思った。
 今から戦う選手によりにもよって、そんなプレッシャーを与えるようなことを師範ともあろう人がかけるだろうか?

 間六彦はそれに口を押さえて苦笑すると、大仰に拳で十字を切り、

「押忍」

 ゴングが鳴った。
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