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2020年10月9日

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この記事を書いた人
青貴空羽

小説家にして極真空手家。
更に2年間の英国留学不治の病うつ病になった経験、オタク文化を発信する為ブログTwitterYouTubeを始める。

Twitter:@aokikuunovel

本編

 周りの喧騒とあまりにあるギャップに、アレは時の流れを忘れてしまいそうになる。

 さく、とナイフを入れ、切り取った肉を口元に運ぶ。
 塩見が、口いっぱいに広がった。

 おばあさんはお肉を自分に食べさせてはくれなかった。
 だからアレはこの美味しさに、夢中になっていた。
 まさにうめぇ、肉、うめぇだった。

 ベトがいないと、自分はまるで置きものでもなったような心地になってしまった。
 どうしたらいいのかもわからない。

 考え方もピンとこない。
 だけどなかなか、話しかけるきっかけ、必要性も、もっといえば発想そのものが浮かんでいこなかった。

「――――」

 そして周りの男たちも、実はお互いでけん制し合っているのが実情だった。
 はしゃいでいるのも実際は普段以上で、しかし女を買うのには慣れていてもコミュニケーションを取ることにはまったく不得手だった彼らは、一番手でやにかにするのに奥手になっていた。

 結果として結局、彼女はひとりだった。
 心の中は、空っぽのままだった。

「嬢ちゃん、元気かい?」

 ふと陰りを見せると、スバルが話しかけてくる。
 それが煩わしいようで、しかし今は都合がよかった。

 おもむろに顔を上げて、アレは言葉を口にする。

「……ベトは、どこにいるんですか?」

 ベトの姿が、朝から見えなかった。
 結局鍛錬場にも現れず、アレは寂しい思いをしていた。


 スバルはそれに弱ったな、と言わんばかりの苦笑いを浮かべ、

「いや、ベトはしばらく姿を現さないよ。用事が出来たらしく、アジトを後にしとる」

「……用事?」

 思わずオウム返しに呟く。
 なんだろう、という思いをあったが、それよりもアジトにいない、という事実がアレに落胆を与えた。

 ベトがいない。
 ただ唯一、心を許せるひとが。

「まぁ、だからといって心配するこたァない。出陣命令がない傭兵なんざ、暇を持て余してるだけだからなァ。なんだったら、街に出てみるのもいいぞ? 嬢ちゃんの案内にだったら、誰だって――」

「はいっ、俺行きます!」

「バカ、俺が行くに決まってるっての!」

「っせ! 俺に行かせろ頼むからァ!!」

 機会を得たハイエナたちは、一斉に牙を剥こうと前に出る。

 最初の日の焼き増しだった。
 みんな雁首揃えて一人前に出る勇気はないくせに、こういう公然と二人きりになる機会は逃そうとしない。

 それにスバルは突き出そうとしていた指をゆっくりと移動させ、

「……マテロフが、適任だな」

 端の方で我関せずと言った感じで食器を片づけようとしていたその人に、矛先を向けた。

「――私、ですか?」

 ぴくん、とアレは反応する。

 "私"?

「……あの、マテロフさんって」

「いやまぁ嬢ちゃんもいきなり野郎と二人っきりだなんて、緊張するだろう? ここはやっぱ女同士水入らずやってきな」

 まさか、だった。

「部隊長、それは……命令ですか?」

「お前がそう望むなら、そうしとこう」

 ハァ、とため息を吐き、マテロフは冷たさすら感じさせる美貌の瞳で、アレを視界に入れた。

 傭兵に女性がいるだなんて、思ってもみなかった。
 だからイコール美男子だなんて勝手に思い込んでいた。

 見ればそれは男装の令嬢というに相応しい風体といってよかった。
 いや髪が肩まであるからもっと女性らしいとも言えるかもしれない。
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