ⅩⅩⅢ/アレ=クロア①
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目次
本編
「うむ、これでいよいよ悪魔と契約した可能性が高くなったな……くわばらくわばら」
「いやいや、嫌な時代ですな。おちおち舞踏会もひらいとられんですよ」
「まったく。今日は女でも激しめに抱いて、早めに眠るとしましょう」
「そりゃいいな。オレも是非ご一緒したいところだ」
『え?』
それがたまたま殺人鬼がいる廊下の角に差し掛かった、哀れな貴族の最後の言葉になった。
いや殺人鬼ではなく首斬り公か。
死体を隠す手間が惜しかった。
とりあえず手近な部屋に投げ入れ、ベッドの下にでも。
少しは時間が稼げるだろう。
なお見つかれば、天命だ。
廊下を進む。
あまり時間はないらしい。
処女かどうか、か。
最初の会話を思い出す。
元は娼婦だと思い、一発ヤろうと声をかけたのが最初だったか。
思い返せば遠くまできたものだ。
いったい、どうしたもんだか。
あの初心さから、間違いなく処女だろう。
しかしあの豹変振りから、悪魔憑きの可能性は拭いきれていない。
契約、という口ぶりも気になる。
結局擁護する要素は、ほとんどない。
だからここに、論理的要素は存在しない。
だいたいそれなら、この考え自体が余分だ。
妙だな、とベトは笑った。
この自分が、色々ウダウダ考えるだなんて。
やはり迷っているのだろうか?
それとも怖いのか?
もしくは自信がない?
どれもありそうで、どれも確信は持てなかった。
ただ。
やっぱり、あの子くらいは守ってやりたいと思ったりした。
大きな広間に出た。
誰もいない。
パーティーホールかなにかだろうか?
警戒を強める。
遮蔽物が少ない。
身を隠しづらい以上、これ以上進むかどうか悩むところだった。
誰もいない。
パーティーホールかなにかだろうか?
警戒を強める。
遮蔽物が少ない。
身を隠しづらい以上、これ以上進むかどうか悩むところだった。
だが、直感がいっている。
この先に、なにかある。
「――――」
気配を、殺す。
消す以上に、心臓さえ止める勢いで自分の存在をこの世から抹消する。
そしてすり足で、少しづつ前に進んでいく。
壁を伝い、柱で身を隠し。
誰もいない。
気配すらない。
それに心臓が、高鳴りそうになる。
それと戦う。
向こうのキャットウォークに天窓があり、そこから月明かりが差し込んでいた。
綺麗だ、となぜか思った。
まともに月なんて、見たことなかったくせに。
そんなものに、興味なんてなかったくせに。
生きて、殺して、食べて、殺して、呑んで、殺して、生きるだけ。
そんな生き方とも言えない生き方を、選んできたはずなのに。
「アレ……」
ふと、口元から言葉が漏れた。
誰にも届かない、発した自分にしか認識できない程度の声が。
なにを想ったかわからない。
ただ、出た。
ホールを、抜ける。
そこから渡り廊下が伸びていた。
一本道だ。
脇には、中庭が見える。
大きな噴水と、無数の植物。
そして廊下には巨大な石柱が何本も立っている。
気配が、まったくない。
だから進む。
時間の無駄だ。
アレが気がかりだ。
処女検査。
ろくな取り調べじゃないだろう。
心配とは違うが、彼女が妙な汚され方をするのは我慢できなかった。
樫作りの扉。
今までのモノと違い、それは酷く粗野で汚らしかった。
離れにある、という時点で妙にキナ臭い。
だからきっと、ここにいるだろうか?
押し、開ける。
なぜか鍵は、かかっていなかった。
「お……」
声が、漏れた。
そこは暗い場所だった。
なにひとつ、視界では捉えられない。
石牢よりなお暗い。
とりあえず気配を探る。
まぁもう半自動で勝手に探っているが。
じゃないととっくにベトは奇襲や暗殺でこの世を去っているし。
いた。
ほとんど、目の前に。
「――だれだ?」
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