Ⅲ/絶望のはじまり①
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本編
アレ=クロアは、母の墓を作った。
家の裏手に。
既に村のほとんどが襲われ、みな逃げ出すか――殺されてしまっていたので、村はガラン、としてしまっていた。
伽藍洞だった。
そこは既に、村ではなかった。
今までアレ=クロアが生きてきた世界では、もはやなかった。
今までの世界のすべては、終わってしまった。
もはや、今までの人生は続けていけないということは、明らかだった。
もう、祖母はいない。
もう、食べ物も飲み物と、やってきてはくれない。
窓で閉ざされた、ずっとベッドで寝てさえいればいいあの狭い空間は、二度とは戻ってこない。
これからは、自分一人で生きていかなくてはならなかった。
「……おばあさん」
その場で、アレは泣き崩れた。
今まで支えてきてくれたことが、失って初めて骨身に染みていた。
ありがたかった。
感謝はしていたが、それでもまったく足りないものだった。
最期に自分の命を、助けてくれた。
あれがなければ、自分はここでこうしていない。
たった一人、生き残ることができた。
でもこれから先を、生きていく自信はない。
何の当てもない。
自分はベッドの上から外を眺める以外の生き方を、知らなかったから。
あの悲しい世界に飛び込む勇気以前に、その発想すらもなかったから。
だけど、やらなければいけない。
死ぬと、死んだと、そう思った瞬間心の底から、細胞の一つ一つから、自分は誓った。
命を神に、捧げる。
その代わり、世界を変えると。
「う、ぅう……っ!」
だから、諦めるわけにはいかなかった。
どんなに苦痛でも立ち上がり、向わなければいけなかった。
わからなくても、身体が動かなくても、どこかへ向けて歩き出すなくてはならなかった。
「っ、う……」
涙を拭って、アレは祖母が使っていた杖をついて、立ちあがった。
それに両手で全体重を支え、アレは一歩一歩と歩み出す。
「おばあさん……いってきます」
最後にもう一度振り返り、アレはあてのない旅に身を投じていった。
村の全景を、初めて見ることになった。
それは思っていたよりも、ずっと大きかった。
窓から見えていた世界は、村のほんの一部に過ぎなかった。
同じような街角を何度も目にしながら、そして村の入り口までやってきた。
そこには繋がれた馬が3頭もいた。
すごい迫力に、アレは圧倒された。
「ハァ……ハァ……」
そこで、体力は尽きてしまった。
ぐったりと、その場に倒れ込む。
まるで動いたことがなかったから、あっという間に限界を迎えてしまう。
窓から見えた走りまわっていた子供や大人が、少しだけ羨ましく思えた。
これから、どうしたらいいのか?
ここまで、誰ひとりとも会わなかった。
このまま村にいても、どうしようもない。
だけど村を回るだけでも、この有様だ。
このあと、どうすればいいのだろう?
へたり込み、両手を後ろの地面につき、天を仰いだ。
青いまっさらな空が、そこには広がっていた。
広い広い空だった。
こんなに、空は広い、そして高い。
それを初めて知った。
自分が存在する世界は、こんなにも広い。
手を、伸ばした。
届かない。
まったく、なんにも。
自分の小ささ、無力さを思い知らされる。
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