ⅩⅩ/火中の対話②

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 嘘だった。
 別に獣を侮っているというわけでもないが、結局これからずっとアジトで起こったような襲撃には備えなければならない。
 山を越えたからといってこの状況を変えるつもりは毛頭ない。

 だがそれをアレに言ったからといって、栓無いことだろう。とベトは解釈した。というか自分のことを話す習慣がベトにはなかった。

「…………」

 しばらく沈黙が流れたあと、アレは傍まで寄ってきて、ベトの隣に腰を下ろした。
 ベトはそちらへ自身の身体を覆っていた毛布をわけ与え、

「どした? 王都まで、まだ長いぞ? 夜はしっかり寝とかねぇと、もたな――」

「ベトは……なんで、泣かないの?」

 意味がわからない質問だった。
 だからオウム返しに、聞き返すことにする。

「……泣く? オレが? なんで?」

「辛い…じゃなくて、悲しい……も違うで……え、と 」

「おいおい……」

 その状況に、ベトは冷や汗をかいた。
 最初の荷馬車でのやり取りを思い出していた。

 あの時のような苦労はご免被りたかった。
 話はさくさくと終わらせるに限るから。

 だが予想に反してアレはしばらくしてから言葉を選ぶように、

「ベトは、死にたいの?」

 沈黙。

「……死にたかァ、ねぇな」

 確信をつくかのように、柄にもなくベトは戸惑う。
 こんなこと、もう慣れっこのはずだったが、いやはや人間の適応力の低さには恐れ入る。

 まったくこれまで、よく生きてこれたもんだ。
 いや逆か?

 さらにアレは、畳みかけてくる。

「なんでいつも、笑わないの?」

「笑ってんだろ?」

「笑……楽しく、笑わないの?」

「…………」

 夜空を見上げる。
 急に起こったなぜなに問答だった。
 まるで生まれたばかりの子供でも相手にしている気持になってくる。

 だが構わないと思う自分がいるのが不思議だった。
 こうして夜空なんて見上げてしまっている。

 現状がもうどうこう出来る範囲を大きく逸脱してしまっているから、既に腹でも括ってしまっているからだろうか?
 いずれにせよ、思った。

 嘘をつく意味も、もうないか。

「あんたは、生きてんのか?」


「生きてる」

 即答かよ。
 ベトは心中ツッコミ言葉を変え、

「自分の意思でか?」

「いえ、神のご意志で」

 予想通り以前聞いた御高説がやってきた。
 それに微かに笑みを作り、

「オレは、今までオレが殺してきたやつのために、生きてる」

 沈黙。

「……殺してきた人たちが、浮かばれるようにですか?」

 そうだよな、あんたはそういう発想しか持ち合わせてないよな。
 だけどベトは、それでいいと思った。
 なにもかも理解する必要は、ないと思う。

 いや、逆か?
 ベトは考える。

 アレの人を惹きつける理由が、なにもかもを受け入れそのうえで導く懐の深さに在ると思う。
 だとするならば、ここはその意図を伝えるべきだろうか?
 だいたいこのままいけば十中八九というかそれ以上に、二人は犬死するだろう。

 犬死にというあたりがなかなかにしゃれてると自負する。
 ならば先の憂いもない、か。
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