ⅩⅠ:馬鹿者

2020年6月9日

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 マダスカは、詠唱を始めていた。
 目をつぶり、呟く程度の声量で。

 その頬には、先ほど流した涙の跡がハッキリと残っていた。

【gig tera as……くっ、duara tina……っ、あ】

 詠唱が進むにつれ、その身体に電気のような火花が散った。
 それを見つめるエリューにはわからなかったが、それは魔法を解除しようとする時に生じる魔力抵抗だった。

 肉体ではなく、魔力の元である魂が削られていく。

「くっ……egita maka diate、う……akas toっ、あ」

「だ、大丈夫か、お前?」

「お前呼ばわりするなっ!」

 心配して声をかけたのに、怒られた。
 それにエリューは理不尽さを感じる。
 先にお前呼ばわりしたのは、そっちのなのに……

「く、い、ぎ……っ、teberodiaッ(どけ、この野郎)!!」

 割れるような頭痛を怒りでぶっ飛ばし、マダスカは反魔法を完成させた。

 なにかが割れるような音と共に、戒めが解かれる。
 同時にマダスカは両膝をついて、崩れ落ちた。

 出来た……まさか自分ごときに、オルビナさまの魔法を打ち破ることが出来るなんて――

 顔を上げた。
 やたらニヤニヤしているあの男を見つけた。

「……なんで笑ってるんだ、お前は」

「え? 俺、笑ってる?」

 口元を触って、実際つり上がっているのに気づいたようだった。
 エリューはそれを元に戻して、

「そ、それでお前、大丈夫――」

「お前って呼ぶなっ!」

「っ……じゃ、じゃあ」

「笑うなっ! 気持ち悪い!」

「わ、笑ってない! たぶん……。じゃあお前、名前なんなんだよ!」

「なんでお前に教えなきゃいけないのよ!」

「じゃ、じゃあもういよ! 名前いいよいらねぇよ!」

「だから、笑うなァ!」

「わ、笑ってないかもしれないだろ、ひょっとしたら! もういい! オルビナ助けに行くから、案内してくれよ!」

「なんでわたしが!」

「むしろなんでなんでなんだよ!」

「笑うなってばァ!!」

「笑ってもいいだろォ!!」

 もう何がなんだかわからなかった。
 というか、本当にそれどころじゃなかった。

「くっ……な、ならもういい! 勝手にしてろ――」

「ま、待て」

 もうこんなわからず屋振り切って行こうとしたエリューを、マダスカは再度呼びとめた。
 それにうんざりして振り返ると、マダスカは手慣れた様子で馬に飛び乗るところで、

「……走って行ってたんじゃ、間に合わないわ。後ろに乗りなさい。案内するから」

 それに一瞬だけ気をとられ、

「あ、ああ。助かる」

 エリューが後ろに飛び乗ってから、

「……マダスカ=ハイエルン」

「え」

「わたしの、名だ」

 しばらくして、それが先ほどのやり取りの続きだとエリューは気づき、

「……エリュー=オブザードだ。絶対にオルビナを……助けよう!」

「当たり前だ!」

 来た時の倍速は飛ばして、二人を乗せた騎馬は来た道を戻って行った。





 賢者騎士団。通称レジスタンスの本拠地は、城塞都市ヘレミアと王都アケンティオの国境にあった。
 地下に潜る必要性から諍いのない二国の中間地点にて、時折来る旅行者のみを警戒して地道な活動を続けてきたのだ。

 一見すれば、プレハブ小屋。
 しかしそれは地下12階にも続き、複雑に分岐する蟻の巣めいた秘密基地。

 しかしその団員たちは現在、そのほとんどが燻り出されていた。

「け、賢者様……」

 その、プレハブ小屋の内部。
 虫の息となった無数の団員たちが転がる中、オルビナは魔法陣を展開させて"ソレ"と向き合っていた。

「……ここまで、か」

 足元には折れた杖が転がり、光のヴェールはボロボロに破け、額から流れる血は白い髪を赤く染めていた。
 その身体は、上半分がなくなった杖により支えられていた。

「だ、団長……」
「賢者様……」
「くそっ、こんなことになるなんて……」

 団員たちの苦悶の声が響く。
 その視線の先には――

「お前には、魔族になりうる素質があるな」

 顔が無く、手も足もないまるで白く細長い棒のような化け物がいた。

「フッ……侮られたものだな? このレジスタンスの、仮にも創始者たる私がそんな誘いにのるとでも思っているのかね?」

 化け物は口もないのに声に近い音を響かせていた。

「お前に決定権はない。なれ」

「命令か……だからお前たちとは、わかりあえない」

 オルビナは身体を支えていた杖を、その化け物に向ける。

「連れ去る」

「そうはいかないね。この場で道連れにしてでも貴様を倒し、団員たちを――」

 その声を、馬が急停止する音が遮った。
 それに地を這う団員たちは驚き、音がした入口の方に目をやり――

「オルビナっ!」

 その呼びかけに、オルビナも視線を切った。

「え、エリュー……?」

 次いで、小さい二つ結びの黒髪も飛び込んでくる。

「オ、オルビナさまっ? ……あ、ああ。よくぞ、よくぞ御無事で……っ!」

「マダスカまで……お前たち、いったい?」

「俺は、勇者になる!」

 オルビナの疑問の声に、エリューは宣言を持って応えた。
 それに呆気にとられているとマダスカまで、

「わ、わたしは、オルビナさまをお見捨てするわけには……!」

「……馬鹿者め」

「バカですっ!」
「申し訳ありません!」
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