ⅩⅡ:無言魔法行使
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目次
本編
二人同時、まったく逆の言葉が紡がれる。
その片方の意味がオルビナには掴めなかったが、こうなってはあとの祭りだった。
その片方の意味がオルビナには掴めなかったが、こうなってはあとの祭りだった。
「――パーティーでの戦闘は、なにより役割分担、コンビネーションが大事だ。お互いの呼吸を常に感じ取るように」
『はいっ!』
「……少年」
すると突然エリューは、足元に転がるひげ面の団員から呼び掛けられていた。
視線を送ると、その団員は自身の剣を差し出しており、
「こ、これを使え……頼む、どうかオルビナ様を……っ!」
「え? あ、あの……」
戸惑いながらその剣を受け取ると同時に、団員は力を失い、顔から床に突っ伏した。
再度声をかけようとしたが、もはや動く様子もない。
一瞬だけ黙とうを捧げ、エリューは鞘から剣を引き抜く。
同時、オルビナの声が聞こえた。
「……くるぞ」
そして、その白い棒の化け物は、身体から――右腕に当たるものを、生やした。
突風。
「! っ……くぁ!」
それにエリューは、腕で顔を庇う。
その強さに、目から涙があふれた。
態勢が崩される。
それほ、それほどのものだった。
「エリュー、前を向け!」
「……くっ」
オルビナの声に、腕の隙間から化け物の姿を確認する。
目の前の視界は、真っ白だった。
「!?」
「この、バカっ!」
その白いものが迫る直前、何かが隣りで光った。
同時白いものは、後方に飛びずさる。
そして目の前に――ほんの目と鼻の先に、鳥の形をした炎が着弾する。
あつい。
ていうか前髪を掠めて、着火してた。
「あ、あちあちあちあちちちちちてめこらマダスカお前ちゃんと狙って敵だけ撃ちやがれ!」
「てめ言うなこら言うなお前言うなていうか名前で呼ぶな嬉しそうにするなァ!」
「喧嘩してる場合かね、今が?」
そのナイフのような冷静な声に、エリュー、マダスカ、共にハッとして、敵を見た。
白い棒の化け物はオルビナの牽制のためか、動かずじっとこちらを見――いや、向いていた。
その顔に、瞳などはないのだから。
「――油断すれば、一瞬でやられるぞ。これの名は、エミルネル。異形の身にして四元素系風属性の魔法をも操る、"魔族"だ」
「……魔族?」
聞きなれない単語にエリューは眉をひそめるが、質問はあとだった。
集中力を切らすのは、この局面を乗り越えた後だ。
「う……うぅ」
足元に転がる無数の兵士たちの無残な姿に、身を引き締めた。
「…………」
エミルネルは、無言でその生えた右腕を伸ばし――再び突風が、エリューたち三人を襲う。
「ぐ、くぅ……」
「う、あ……」
「――目を見開け、二人とも。来るぞ」
果たしてオルビナの言う通り、エミルネルは――マダスカの後方に、突然その姿を、現した。
「っ! マダスカ!」
「え? は?」
気づいたオルビナが呼びかけるも、マダスカは真後ろの事態には気づけず、エミルネルはその胸から自身と同色の円錐形の突起を生みだし、伸ばし、それでマダスカを貫かんと――
「おおおおっ!」
それを、エリューが振り向く時に発生する遠心力を目いっぱい利用した一撃で、留めた。
それだけの一撃ですら、留めるので精いっぱいだった。
「く、ぐ……ぅう!」
「え、エリュー……あ、あぁっ!」
その騒ぎに後ろを振り返りマダスカは驚愕し、すぐさま間合いを取り、
「お、おのれ……【egintora(火燕)】!」
呼気、一閃。放たれたそれは、先ほども使用された燕を模した、炎の塊。
それはまるで意思を持っているかのように翼を広げ、エミルネルに殺到する。
しかしそれは、エミルネルの右腕のただ一振りで――消滅した。
マダスカはまともに動揺を浮かべ、
「な……! な、なん、な、で」
「動揺するな。無言魔法行使だ」
「は……は、はいっ」
巻き起こる無数の、理解不能の事態。
それをエリューは、掴む剣に目いっぱい力を入れることで、混乱を押さえた。
今は、考えている場合じゃない。
「ふっ……あ、ああっ!」
拮抗状態だった突起から剣を引き、今度は上段から、一気に振り下ろす。
エミルネルは動かない。
やった、と一瞬思った。
剣はただ、空を切った。
「な……くっ」
驚愕と、予想外の空振りに身体が流れる。
同時に背後に、気配。
なにがなんだかわからず、ただ本能に任せるまま前に飛んだ。
背中に、焼けるような痛み。
「ぅ……わあああっ!」
「エリュー!?」
「くっ……【egidemint poala(灼光の矢)】」
マダスカがその悲鳴に驚き、オルビナが瞬時に赤の魔法陣から光の矢を射出。
その速さはマダスカの火の燕の三倍にも達し、一瞬にしてエミルネルの眉間に当たる場所まで達し――直前でその姿が、掻き消える。
そして再びマダスカの後方に、現れる。
「く……【hida tona(移身の盾)】」
再び伸ばされた突起がマダスカの背中に刺さる直前、オルビナの魔法によって現れた――手の平大の小型盾が、それを防いだ。
「え……きゃっ、き……【kiatic(燃えあがれ)】!」
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