ⅩⅩⅣ/処女検査④

2020年6月26日

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 フィマールは呆然と呟き、裁判席から下りてきた。

 それにより聴衆の注目が集まる。
 隣の二人の裁判官も身を乗り出して何事かと見守っている。

「お前はなぜ、そう言える? そんなことが言える? 神だぞ? 神などとのたまうからには、天罰も覚悟しておるのだろうな?」

「していません」

 うろたえる聴衆、フィマールに対して、アレは清々しいくらいの笑顔だった。
 それにフィマールは――アレの両腕を、掴んだ。

 裁判官のひとりが、声をあげる。

「フィ、フィマール殿……て、手をあげては……」

「なぜだ?」

 しかしフィマールには、まったく声は届いていないようだった。
 その様子には、尋常じゃないものがあった。
 それにみな眉をひそめ、戸惑い――ただアレだけが、その瞳を真っ直ぐに見つめていた。

「お前は、なぜ……そんな大それたことが言える!?」

「あなたはなにを、怯えているんですか?」

 ピタリ、とフィマールの動きが止まった。
 震えも言葉も、なくなった。

 それにエミルダが顔色を窺うように、

「さ、裁判長? あの、どうかして……」

「お前はなにが見えている?」

 とつぜんフィマールが、問いかけた。
 その相手はもちろん、エミルダではない。

「なにも見えてはいませんよ」

「嘘をつくな……お前は、魔女なのか?」

「違います」

「ならなぜ、そんなことが言える? なぜそんな風に平然としていられる。なぜそんな目を、出来るのだ?」

 腕を掴んでいた手が上がっていき、アレの顔に伸びる。
 それはゆっくりと、こちらを覗き込むアレの瞳に翳される。

 もう一人の裁判官が、息を呑む。





「フィ、フィマール殿……お、落ち着かれて……」

「答えろ。お前は、何者だ?」

 一触即発。
 いつの間にか魔女裁判が、二つの瞳に手をかけようとするフィマールがアレを尋問するという構図になっていた。

 フィマールが、じぃとアレを睨みつける。
 その瞳はなにを言うか、その内容によってはただでは済ませないと語っていた。

 フィマールは、元はただの神官だった。
 礼拝堂で神に仕え、日々迷える子羊を導くのが職業だった。

 しかし国は荒み、人々は餓え、そのなかで国は魔女の魔術によるものという洗脳を受け、そのあおりを受けこの魔女裁判の裁判長に任命された。
 最初は懊悩し、自分の在り方にすら悩んだものだが、どんなものでも慣れるもので、今では当たり前のルーチンワークのようにこなしている自分がいた。

 なにをどうこうという話ではない。
 ひとの身ではどうにもできない運命の流れがある、ということだ。

 しかしこの娘の瞳は、なんだ? 

 まるでこの自分を、糾弾しているようではないか?

「答えろ……お前は、お前は――!」

「あなたの罪は、あなた自身が許すしかありません」

 どくん、とフィマールの心臓が鳴った。
 なぜ心が読める?
 いや、それよりも――

「罪、だと? 私、自身が許す、だと? そんなこと……そんなこと、決してあってよいものかッ!!」

 激昂するフィマール。周りは何事かと、固唾を呑んで見守っている。
 エミルダが前に出ようとして、裁判官たちもあたふたと慌てている。

 アレは結局最後まで、その在り方を変えなかった。

「あなた自身が許さなければ、あなたの罪は決して許されることはありません。あなたは死ぬまで、運命に捕われた囚人となるでしょう」

「う、運命……だ、と」

「運命です。あなたはただそれに甘んじているだけです。無理だと、仕方ないと、自分に言い訳して」

「っ……」

 初めてそこで、フィマールは言葉を失った。

 あまりに自分の核心をつく言葉に、返す言葉が無かった。
 怒りを見せることは、つまりは図星をつかれたことを証明することに他なかったから。

「な、ならば私は……いった、どうすれば――」

「手伝ってください」

 アレは気負わず、言葉を紡いだ。
 あまりに自然だったため、それはするりとフィマールの心の中に入っていった。

「私に……出来ることが、あるのか?」

「きっとあります」

 にこやかに、アレは答えた。

「でなければ、わたしたちは苦しむために生まれたとでもいうのでしょうか?」

 その姿はまるで天使のように、フィマールには映った。
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