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ⅩⅩⅣ/処女検査④

2020年10月8日

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目次
この記事を書いた人
青貴空羽

小説家にして極真空手家。
更に2年間の英国留学不治の病うつ病になった経験、オタク文化を発信する為ブログTwitterYouTubeを始める。

Twitter:@aokikuunovel

本編

 フィマールは呆然と呟き、裁判席から下りてきた。

 それにより聴衆の注目が集まる。
 隣の二人の裁判官も身を乗り出して何事かと見守っている。

「お前はなぜ、そう言える? そんなことが言える? 神だぞ? 神などとのたまうからには、天罰も覚悟しておるのだろうな?」

「していません」

 うろたえる聴衆、フィマールに対して、アレは清々しいくらいの笑顔だった。
 それにフィマールは――アレの両腕を、掴んだ。

 裁判官のひとりが、声をあげる。

「フィ、フィマール殿……て、手をあげては……」

「なぜだ?」

 しかしフィマールには、まったく声は届いていないようだった。
 その様子には、尋常じゃないものがあった。
 それにみな眉をひそめ、戸惑い――ただアレだけが、その瞳を真っ直ぐに見つめていた。

「お前は、なぜ……そんな大それたことが言える!?」

「あなたはなにを、怯えているんですか?」

 ピタリ、とフィマールの動きが止まった。
 震えも言葉も、なくなった。

 それにエミルダが顔色を窺うように、

「さ、裁判長? あの、どうかして……」

「お前はなにが見えている?」

 とつぜんフィマールが、問いかけた。
 その相手はもちろん、エミルダではない。

「なにも見えてはいませんよ」

「嘘をつくな……お前は、魔女なのか?」

「違います」

「ならなぜ、そんなことが言える? なぜそんな風に平然としていられる。なぜそんな目を、出来るのだ?」

 腕を掴んでいた手が上がっていき、アレの顔に伸びる。
 それはゆっくりと、こちらを覗き込むアレの瞳に翳される。

 もう一人の裁判官が、息を呑む。





「フィ、フィマール殿……お、落ち着かれて……」

「答えろ。お前は、何者だ?」

 一触即発。
 いつの間にか魔女裁判が、二つの瞳に手をかけようとするフィマールがアレを尋問するという構図になっていた。

 フィマールが、じぃとアレを睨みつける。
 その瞳はなにを言うか、その内容によってはただでは済ませないと語っていた。

 フィマールは、元はただの神官だった。
 礼拝堂で神に仕え、日々迷える子羊を導くのが職業だった。

 しかし国は荒み、人々は餓え、そのなかで国は魔女の魔術によるものという洗脳を受け、そのあおりを受けこの魔女裁判の裁判長に任命された。
 最初は懊悩し、自分の在り方にすら悩んだものだが、どんなものでも慣れるもので、今では当たり前のルーチンワークのようにこなしている自分がいた。

 なにをどうこうという話ではない。
 ひとの身ではどうにもできない運命の流れがある、ということだ。

 しかしこの娘の瞳は、なんだ? 

 まるでこの自分を、糾弾しているようではないか?

「答えろ……お前は、お前は――!」

「あなたの罪は、あなた自身が許すしかありません」

 どくん、とフィマールの心臓が鳴った。
 なぜ心が読める?
 いや、それよりも――

「罪、だと? 私、自身が許す、だと? そんなこと……そんなこと、決してあってよいものかッ!!」

 激昂するフィマール。周りは何事かと、固唾を呑んで見守っている。
 エミルダが前に出ようとして、裁判官たちもあたふたと慌てている。

 アレは結局最後まで、その在り方を変えなかった。

「あなた自身が許さなければ、あなたの罪は決して許されることはありません。あなたは死ぬまで、運命に捕われた囚人となるでしょう」

「う、運命……だ、と」

「運命です。あなたはただそれに甘んじているだけです。無理だと、仕方ないと、自分に言い訳して」

「っ……」

 初めてそこで、フィマールは言葉を失った。

 あまりに自分の核心をつく言葉に、返す言葉が無かった。
 怒りを見せることは、つまりは図星をつかれたことを証明することに他なかったから。

「な、ならば私は……いった、どうすれば――」

「手伝ってください」

 アレは気負わず、言葉を紡いだ。
 あまりに自然だったため、それはするりとフィマールの心の中に入っていった。

「私に……出来ることが、あるのか?」

「きっとあります」

 にこやかに、アレは答えた。

「でなければ、わたしたちは苦しむために生まれたとでもいうのでしょうか?」

 その姿はまるで天使のように、フィマールには映った。
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