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2020年10月9日

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目次
この記事を書いた人
青貴空羽

小説家にして極真空手家。
更に2年間の英国留学不治の病うつ病になった経験、オタク文化を発信する為ブログTwitterYouTubeを始める。

Twitter:@aokikuunovel

本編

 レックスなら勘違いして求婚して張り倒されるかもしれない。
 それほどマテロフが他人に声をかけ、あまつさえ過去を尋ねるという現象は驚嘆に値する事実だった。

「…………はい? なにか言いましたか、マテロフさん?」

 だが当の本人であるアレは、初めて訪れた街の様子に興味シンシンだった。

 その目抜き通りには、たくさんのひとが行き交っていた。
 それこそ、視界いっぱいに数え切れないほどの。
 そのどれもが今まで見たことが無いような色鮮やかな衣服を身にまとい、そして活気に溢れていた。

 これに比べれば、自分が今までいた街は死んでいたようだとアレは思っていた。

「――いや、なんでもないさ。ところでアレは、いま何を考えていたんだ?」

「この街は、まるで生きてるみたいだなって」

 清々しい笑顔で言われても、マテロフには理解し難い感覚だった。

 街が生きている?
 活き活きしている、ならわかるが――もしかして、

「アレは、ベトの剣を見てどう思う?」

「獰猛ですよね、祖母に聞いた野生の熊みたいです」

「……私の弓についてはどう思う?」

「綺麗で、背筋がシャンとしてますよね。トビウオとかの、流線形の魚みたいです」

 やっぱりだ、とマテロフは思う。

 アレは、その目に見えるものすべてを生き物のように感じる習慣を持っているらしい。
 無機物と有機物の区別がついてないというか、だからこそなんにでも――

「あ、マテロフさんあそこのあれなんですか?」

 呼ばれ、マテロフは意識を戻す。
 アレがはしゃぎ指さす先には、一件のホットドッグ屋。
 フランクフルトを縦に切られたパンで挟んだだけの簡素なものだが、アレは初めて見るそれに目をキラキラさせていた。

 見た目に似合わない肉食らしい、彼女は。
 思わずマテロフは、その口元を緩めていた。

「ああ、それは……食べてみるかい?」

 名称を教えようとして、思いとどまった。
 食べ物は名前より、まずは食べてみるべきだろうと。

 それは事実正解だったようだ。

「あ、おいしい……でふ、あつ……おいひい、おいひ……あっつ」

「落ち着いて食べなよ。ホットドッグは逃げてはいかないぞ?」

 出来たてのホットドッグを、熱がりながらしかし満面の笑みでアレは頬張った。
 その姿を、マテロフは腕を組んでにこやかに見守る。

 それを売った太めの店員まで笑顔だ。
 歩きながら食べるそれも、アレにとっては店の前で必死になって相手取るものらしい。

 がぶり、とアレが豪快に食いつくたび、ジューシーな肉汁が飛び出していた。
 見ていると、マテロフも小腹がすいてきた。
 店員に言って、もうひとつ頼んだ。

 そして二人並んで、同じものを食べた。
 同じ釜の飯を食う仲、というやつか。

「……マテロフさんは」

「ん?」

 半分ほどたいらげたアレが、唐突に呟いた。

 それにマテロフは、意識を再びアレに。
 すぐに自分に没頭するのは、マテロフの癖だった。
 意識せずそれで、周りの情報から自分を守ってきたのだが。

「なんでわたしに、優しくしてくれるんですか?」

 無垢な視線を、向けられた。

「――――」

 それにマテロフは、肉汁溢れるフランクを噛む歯を、止める。

 まさかの質問。
 これがあるから、この子は侮れないと思う。

「……そりゃ……いや、優し……」

 次々出てくる単語を、うまくまとめられない。というか、よく考えれば理由があるのかどうかも怪しいようで、しかし自分が理由もなしに誰かに構うのもありえないような気もする。

 だから、

「その……なんでアレは、逆にそれを聞きたいんだ?」

 投げ返してみた。
 いつも喰らいっぱなしは癪と、ちょっぴり思ったかもしれない。

 その反応にびっくりしたようにアレは目を点にした――マテロフはちょっぴり可愛いなどと思ったりしたが――あと伏せ眼気味に、

「……怖いから」
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