ⅩⅩⅣ/処女検査①

2020年6月8日

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 魔女だと聞いていた。
 悪魔と契約したであろう、魔術を扱う恐怖の権化。

 それこそ空恐ろしい姿を想像していた。
 見ただけで心臓が止められるくらいの覚悟を、決めるくらい。

 しかし、現れたのは小汚い小娘だった。
 長い髪はボサボサ、あちこちに木くずまでついていた。
 着ているものは元は白いであろうしかし黒く薄汚れたローブが一着。
 しかも履き物すらない。
 まるで乞食か何かのようだ。

 しかしその顔を正面から見て、考えが変わっていた。

「哀しい眼の色を、しているからです」

 その言葉を聞いて、印象も変わりつつあった。

「……かなしい、だって?」

 その顔は、いままで見たどんな着飾り、箱入りに育てられた令嬢、姫君よりも高貴な顔立ちをしていた。
 そのボサボサの髪は、しかしその実態は透き通るような銀糸のようだった。
 真っ白な肌に、整った目鼻と――真っ直ぐで透き通った、その瞳。

 自分の心を、見ているような。

「あたしの何が、かなしいっていうんだい?」

「わかりません」

「あんた、あたしをバカにしてんのかい?」

「してません」

「……ふぅ」

 そこで女官は、ひと息入れた。

 これはある意味、魔女かもしれない。
 ぜんぜん言葉が通じない。
 どうしたもんだか、少し考えてしまう。

 女官は頭を振り、

「ま、あたしに何があったかなんて、そんなもんどうだっていんだよ。それよかあんた、本当に魔女なのかい?」

「? 魔女じゃありませんよ?」

 惚けているようには見えない。
 というかこの子の行動に、一切なにか裏があるように見て取ることが出来ない。

 しかし女官は、そこに行動の裏を図ることが出来なかった。
 これが、魔女の手口なのかもしれなかったから。

「じゃああんたは、なんで魔女裁判にかけられてるんだい?」

「誤解なんです。その誤解を解いてもらおうと、色々頑張ってるですけど」

「じゃあ、あんたは村から攫われてきたのかい?」

「いいえ、歩いてここまで来ました」

「は? じゃああんたはわざわざここまで、なにしにきたんだい? 捕まりにかい?」

 一応皮肉を込めたつもりだったが、

「この世界を、変えるためです」

 雷に打たれたような衝撃だった。
 それに思わず、女官はアレの手を握っていた。

「ほ、本当に世界を変えてくれるのかいっ!?」

 必死な面持ちのそれにアレはいつものように、

「はい」

 ただ笑顔で、応えていた。

 女官は、沈痛な面持ちで話しだした。

「あたしの娘は……魔女裁判で、殺されたんだよ」

 女官は語った。
 女官は、元は地方の農村の出だったという。

 名を、エミルダといった。





 エミルダは夫と娘と三人で、農作業をして日々の糧を得ていたという。
 大きな事件も大きな幸せもなかった代わりに、手の中の小さな幸せを毎日神に感謝していた。
 家族と食べるパンが、美味しかった。

 そんな折り、隣に住むリムルという顔なじみと、小さな口論があった。
 確か取れた小麦の量が、そちらよりこちらが少し多かったとかなんとか。

 なんでもない話のつもりだった。
 家に帰ったら、すぐに忘れて眠ってしまった。
 その程度のつもりだった。

 しかし次の日。
 目覚めて目にしたのが、玄関で待つ物々しい恰好をした幾人もの役人たちだった。

 なにが起こったのか、まったくわからなかった。
 夫が対応していた。
 話を聞くと、なんでもこの家に魔女がいるという通告を受けてやってきたという。

 驚いた。
 というより、困惑した。

 わけがわからなかった。
 そんなこと寝耳に水だし、だいたい魔女という単語を誰かから聞いたのが初めてに近かった。

 魔女ってなに?
 それでなんで、お役人がくるの?
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