ⅩⅩⅣ/処女検査②

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 叫び出したい気持ちを必死に抑えて、夫の話に耳を傾けていた。

 しかし役人たちは、ほとんど話を聞く気はなかった。
 ただ一方的に喚き散らし、そして一人娘のベティータを、連れて行こうとした。

 喚いた。
 泣いた。
 必死に懇願した。

 なにをするの?
 私たちがなにをしたっていうの?
 娘がなにをしたっていうの?
 魔女って何よ?
 奪わないで。

 私から娘を、奪わないで!

 懇願は、聞き入れられることはなかった。

 結局娘は、屈強な役人二人に、連れて行かれてしまった。
 エミルダは泣いた。
 泣きに泣きに、泣き尽した。
 ひと月近くは、泣いて暮らした。

 だけど泣いても泣いても、娘は帰ってこなかった。
 夫は慰めてはくれたけど、結局なにもしてはくれなかった。

 それでエミルダは、泣くのをやめた。
 泣くのをやめて、エミルダは家を捨てた。

 家を捨て、畑を捨て、エミルダはありとあらゆる手段を用いて城への登用を目指した。
 ある時は役人に媚びへつらい、ある時は娼婦まがいの真似をも辞さなかった。

 女の執念だった。
 自分の身を一切顧みず、体裁もなにも構わずただただ娘の元にたどり着きたい。
 その、一心だった。

 そしてエミルダは、女官となった。
 もうその頃には、農家の母だった面影は消え失せていた。
 言葉は汚くなり、心は荒み、そして身体はやつれてしまった。

 そして宮殿の内部に入り、そしてみな自分が外からの人間だということなど忘れてくれたあと、エミルダは娘の所在を知ることになった。

 娘は城の一番地下で、冷たくなっていた。





 その時の想いを、エミルダは忘れることが出来なかった。
 娘は信じられないくらい、ぶくぶくに膨れ上がっていた。

 あちこちに、水膨れのあと、鞭のあと、切り刻まれたあとなどがあった。
 ボロボロで、まるでうち捨てられた雑巾を連想してしまったことを、エミルダは生涯忘れることは出来ないだろうと思った。

 話によると、娘はこちらで処女検査を受ける折り、城中の役人たちに犯され、輪姦(まわ)されたという。
 その末に行われた裁判。
 そこで娘はありとあらゆる責め苦、拷問を受け、魔女と確定され、この城の一番地下に打ち棄てられたという。

 呪った。
 その瞬間、全てを。

 役人を、魔女狩りを、城を、貴族を、王を、世界、そのものをさえ。
 なにもかもが、消え去ってしまえばいいと思った。
 生まれてきたことさえ、間違いだと思った。

 しかし自分には、力が無かった。

 そこで魔女裁判の、処女検査官となった。
 その過程で、本物の魔女に出会えたなら。
 そしてその力を、貸してもらうことが出来たなら。
 そんな計算があった。

 自分の娘が、魔女の疑いをかけられてここにつれてこられたことも、忘れて。

 そしてエミルダは、アレ・クロアと出会った。

「あんた……魔術が、使えるのかい? 使えるんだろ? じゃなきゃ世界を変えるだなんて、言えないからね? 使えるんだろ、そう言っておくれよっ!?」

 エミルダの様子は、尋常ではなかった。
 いままで溜まりに溜まったうっぷんや募った想いなどが、爆発しているようだった。
 今にも掴みかからんばかりに身を乗り出し、目を充血させ、唾を飛ばしている。

 それにアレは、湖のように静かな表情で受け止めていた。

「わたしに魔術は、使えません」

 言い切った。
 まったく躊躇う、こともなく。

 それにエミルダは、当然血相を変える。
「は? ハっ? ハァ!? なに、使えないの? できないの? なにそれ、ならなんであんた世界を変えるだなんて言ったのよ!? ねぇ、答えてよ!? 答えてよォ!!」

 襟首を掴みガクガクと揺さぶり、唾を吐きかけるようにアレを罵倒する。
 それにもアレは一切抵抗するそぶりを見せず、

「すいません。わたしは、魔女じゃないんです。だから魔術を扱うことは、出来ないんです」
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