六十一話「現代の武士」
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目次
本編
彼はずっと、長崎県のナンバー2だった。
常に強者の称号と共に、纏に苦杯をなめさせ続けられてきた男だった。
でも、いつかは勝ちたいと、己を磨き続けてきた男だった。
常に強者の称号と共に、纏に苦杯をなめさせ続けられてきた男だった。
でも、いつかは勝ちたいと、己を磨き続けてきた男だった。
それが突然今年、纏は西東京支部に移った。
許せなかった。
どれだけ自分が纏の眼中にないのか思い知らされ、矢も盾も止まらずこの大会への参加を決めていた。
どれだけ自分が纏の眼中にないのか思い知らされ、矢も盾も止まらずこの大会への参加を決めていた。
津田(つだ)の得意技は、膝蹴りだ。
日本人離れした、胴に対して非常に長いその足を鋭角に相手の腹、アゴに突き刺し、彼は1回戦、2回戦を勝ちあがっていた。
そして3回戦、海宮慎二戦を迎えた。
試合開始と同時に今までと同様膝蹴りの連打で押し込み、場外に押し出した。
審判の指示で背中を向け、試合場中心に戻ろうとしていた、その時。
後ろから頬に、軽いハイキックを当てられた。
驚いて振り返ると、その蹴りを――とんでもない反則をおかした本人である慎二は、口の端を歪めていた。
当然主審からは厳重注意を受けていた。
そのあと、試合は続行される。
津田は再び膝蹴りを腹に叩き込んだが、今度はそれに合わせて掌底(しょうてい)――手の平の底の厚い部分が、再び頬を軽く叩いた。
主審は慎二に減点を与えた。
技あり相当のポイントだ。
それプラス、もう一度反則を犯したらすぐに反則負けになるという、警告の意味も含んでいる。
試合再開。
だが慎二は間合いを詰め、左手を引き掌底を作り、それを顔面に向けた軌道で振ってくる。
いい加減にしろ。
津田はそれに合わせて、ガードを上げた。
だが、前に出されたその掌底は急激に後ろに引かれ――代わりに左足の甲が孤を描いて、津田のガードが空けられた右脇腹に叩き込まれた。
左ミドル。
纏ほどの威力はもちろんないが、完全に意表を突いたことにより、津田は一瞬呻いて前屈みになる。
その頭を引き込んで――
顔面への膝蹴り。
一本勝ち。
歓声は、なかった。
まさしく勝利至上主義といえる、反則ギリギリの手を使い実力差を跳ね返して勝ってきた、ある意味現代の武士(もののふ)。
そして相手は、伏兵橘纏。
彼の圧倒的な爆発力は、もはや会場中で周知の事実だった。
なぜこれほどの選手が、埋もれていたのか?
会場中が疑問に思うほどだった。
なぜこれほどの選手が、埋もれていたのか?
会場中が疑問に思うほどだった。
その二人が、試合場で向き合っている。
戦前の予想では、7:3で纏に分があった。
やはりあの攻撃力は圧倒的だろうと。
だが、3の人間は、慎二の意外性に賭けていた。
勝つためには、何でもやる。
その戦い方に、波乱を期待しているのだ。
それは、7側の人間も少なからず思っていることでもあった。
真っ向からいってはまず勝てないだろう。
だが、前回の芳染や、今回の津田との一戦の例もある。
勝負に、絶対はないのだ。
纏は、相変わらずの無表情だ。
慎二は、実際笑っているわけではないのだが、雰囲気が笑っているように、見るものに思わせていた。
纏の静かな圧力と、慎二の妖しげな雰囲気が、試合場で絡み合っていた。
会場に、緊張が走る。
そして、
「始めっ!」
準決勝第2試合は、幕を開けた。
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