煉仁会

2019年11月1日

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 聞こえたのは、風の唸り。
 感じたのは、髪が揺れる風圧。
 見えたのは、目の前の木の葉が掻き消えた事。

 でも結局、天寺が何をしたのかはまったく見えなかった。

「あー……そうか。お前、こういうの見るの初めてか。まあ、確かに慣れてないと、目がついてかないのかも知れないな」

 そう言って天寺は、今度は一連の動きをスローモーションで再現し始めた。

 まず、天寺の体が左足を軸に、背中向きにゆっくりと右回転を始める。

 そして左半身がこちらを向いたところで、今度は右足の踵が浮き上がり、それが下方から真横に上げられ、それは体の回転によって背面越しに大きな弧を描き、ちょうど四分の三回転を終えた――右半身をこちらに向けたところでピタ、と遥の首筋に、静止した。

「ここからさらに膝を巻き込むことで完成する蹴りなんだけどな」

 その足を再び丁寧に下ろし、天寺は笑う。
 その迫力に、遥は息を呑んだ。

 天寺は再び遥に背を向け、歩き始める。
 それに遥も続き、

「――それで、その技術は」

「それがつまり――」

 天寺は立ち止まり、振り返る。
 そして肩越しに親指で、背後を差す。

「こういうことだ」

 そこには、建物が立っていた。

 木造平屋一戸建ての、日本家屋。
 その入り口、表札に当たる板には、こう書かれていた。

 煉仁会空手 橘道場

「煉仁会(れんじんかい)……空手?」

 遥は再び、目を白黒させる。
 それに天寺は笑みを作り、

「ま、そゆこと。オレの蹴り――お前風にいう『技術』は、ここで培われたものさ」





 それに、遥は考える。

 空手、って――漫画とか映画で、白い袴みたいなのを着て巻き藁(わら)叩いたり瓦を割ったりする、あれのことか?

「空手やってるから、あんなことが出来たの?」

 いきなり。

 話す二人の間に割り込む形で、朱鳥が天寺に詰め寄っていた。

 それに天寺は動揺を浮かべ、

「て、あ……いや、その」

「どうなの? 空手さえやってれば、誰だってあんなことができんの?」

「ま、まぁ、その……頑張れば?」

「どんな風に?」

 まくしたてられ、天寺は冷や汗を流し、

「……じゃあ、どうかな? 二人とも、オレの言葉が嘘じゃないってことを証明する意味もかねて、ちょっと見学していかねーか?」



 全面板張りの道場には、ワックスが掛けられていた。
 光沢のある無数の木目に、大木の中にいるような錯覚を覚える。

 左手の窓枠に道場訓、右手には神棚も置かれている。

「おぉ。司(つかさ)、来たか」

 天寺のあとに続いて入ったその建物の内装に目を奪われていると、不意に道場の奥から声が響いた。
 それに遥は、回していた視線を向けて――目を剥いた。

 パンパンだ。
 それが、最初の印象だった。

「…………」

 現れたのは、白い前合わせの衣装――空手着を纏った男。
 しかし遥は、それに目を奪われたのではない。

 胸元、そして腕。

 盛り上がったそれは、まるっきり岩山。

 ゴツゴツした腕は、ワインボトルか何か。

 なぜか遥の脳裏で、知り得ない過程が想像される。
 それは元々更に太かったものを、限界まで絞り込み、硬く張り詰めさせた、凄まじく密度の濃いもの。
 ボディービルダーのような見せるものでも、俳優のような動きだけでもない、まさに実践に即した筋肉──

「お、この子か?」

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