ⅩⅩⅡ/魔女裁判②
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目次
本編
アレの言葉に、傍聴席の聴衆たちは言葉を失った。
一部にはざわめき、彼女の罵る言葉を発している者もいる。
一部にはざわめき、彼女の罵る言葉を発している者もいる。
そして裁判長の席に座るフィマールは、再度尋ねた。
「――お前は、魔女ではないのかね?」
「わたしは、神の使いです。魔女などではありません」
笑顔。
鉄壁の。
決して崩れない。
それに、見ている者たちは寒気がする思いがした。
傍聴席には既に200近くの人間たちが取り囲んでいる。
席の高さは3メートル近く。
さらにみな絢爛豪華な装いに身を包み、アレは粗末で着古されて汚れた元は白いであろうローブひとつで、足元には靴すらなし。
そして手に杖を持って、やっという状態で立っている。
周りには二人の警備が固めて、向こうを張る裁判官は自分を含めて、経験豊富にして老獪を自負する長老格が三人。
それに対して、まさか笑っていられる者がいようとは。
フィマールは自慢の白ひげをさすり、
「ほう、神の使いか。ならば神は、お前になにか使命を与えたというのか?」
「はい。わたしに、世界を変えろと」
今度は決定的に、傍聴席が騒乱に変わった。
口々に何事かを――というよりなにごとか、と喚いている。
こうなれば立場上、
「静粛に、静粛に!」
ゴンゴン、と木槌を打ち鳴らす。
それに静寂が戻ってくる。
だがしかし余韻は確実に残っているようだった。
それはまぁ当然だろう。
なによりフィマールも、動揺を抑え切れてはいなかったのだから。
「娘よ。世界を変える、といったな?」
「はい、いいました」
「して、それは世界のなにを? どのように? 変えるという意味だ?」
「それはわかりません」
笑顔でいってのけた。
それに今度は、聴衆から怒号が巻き起こる。
「ふざけんなッ!」
「いい加減にしろ、この魔女が!」
「なにが世界を変える、なにが神の使いだ!」
「なにひとつまともにモノを言えないのか!?」
「静粛にっ!」
木槌を鳴らすが、今度はなかなか静まらなかった。
それだけ今の発言が、聴衆の怒りを煽るものだったということだろう。
それはフィマールにしても、同じものだった。
「……娘、いまわからん、と言ったか?」
「はい、いいました」
「それで、どう変えるというのだ?」
「わかりません」
「……すまんが、わしにはお前がなにをいっているのかわからんのだが。わしにもわかるように説明してくれるか?」
「大丈夫ですか?」
「あぁ、すまんな心配させて……」
妙な光景だった。
裁かれているはずのアレの方が、裁く方の三人の裁判官の中心にいて額を押さえるフィマールを気遣っている。
それに聴衆たちは、先ほどとは毛色の違うざわめきを始めた。
「それで、今のはどういう意味かね?」
「あ、はい。だからわたしはですね、世界を変えるというただひとつの意思の元に動くだけなんです。方法なんて、わかりません。ただ神のご意思に、従うだけです」
「むぅ……」
頭を抱える。
なるほど、今までの娘とはまったく違うことは確かだった。
まずこの状況に物怖じしないことが尋常ではない。
さらにその行動指針も理解できない。
この子をどう裁くべきか、実際悩むところだった。
まずは、この辺りから始めるか。
「……お前は、神のお告げを聞いたのか?」
「聞いていません」
「ならばなぜ、神の使いなのだ?」
「神と契約したからです」
「契約?」
「はい」
「それはどういった契約だ?」
「この命と引き換えに、世界を変えると」
聴衆がざわめく。
口ぐちに、なにか言い合っている。
フィマールは続ける。
「命と引き換えだと? それはいったい、どういう意味だ?」
「わたし一度、死んでるんです」
聴衆が、大きくざわめく。
それにフィマールも目を瞬かせる。
一度死んでいる?
この娘が?
だとすれば、ひょっとして――
「……娘、お前はもしかして――」
「なんですか?」
娘に変化は見られない。
変化が無い。
おかしい。
異常だ。
そして契約、という単語。
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