第79話「穏やかな日々」
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本編
それからはしばらく、穏やかな日々が続いた。
学校に行き隼人や切間と授業を受け、昼休みは彼女と隼人と三人で昼食を取る。
彼女が隼人ともアドレス交換をしたおかげで、三人それぞれに言葉とメールを駆使したスムーズな――って言うんだろうか、こういう場合……?――意志疎通が出来るようになった。
隼人は相変わらずにこにこ笑って写真部での話や趣味の映画の話をしていたし、彼女はそれに相槌を打ったり、絶妙な――天然の?――合いの手を入れていた。
僕は僕で空手の話や神龍との旅の話。
それにゼミでの切間の暴走振りなどを話した。
たまに二人で結託されて、狙ってるんだか天然なんだかわからない僕への際どい質問が飛んだりして、慌てて誤魔化したりかわしたりと冷や汗を流した。
夜には稽古をして、とうさんの実践論を聞く。
そして気分がノった日や誘われた日は、切間と家で朝まで騒いだりして過ごした。
凄く、楽しかったと思う。
そんな日々を過ごしながら『照ヶ崎海岸探索』を三日後に控えた、六月十三日、木曜日。
一限目の原田先生の消費経済の授業が終わったあと次のコマが空きだった僕は、カフェテリアにいた。
部屋中に満ちるその香りに目を閉じる。
ハーブティーの香りって、本当に心を落ち着けるんだなぁ……。
窓際のカウンター席の一つで肘をついて、ストローでオレンジジュースをちびちびと飲んでいる。
目の前には腕を伸ばして机の上にべったりとつけ、その上に側頭部を乗せたプラチナブロンドがいる。
同じく今の時間が空きの切間だ。
カフェテリアを含め、大学の中はいたる所にクーラーが効いていて非常に快適だ。
そうなると外とのギャップによって、どうしても空き時間は怠惰に過ごしたくなる。
上芝大学のカフェテリアは、奥にソファー席が十、手前のカウンターに椅子が四十は設置されていて、空間的には漫画喫茶に近いように思う。
あちこちで生徒が僕たちと同じように怠惰に過ごしているのが見て取れる。
「原田先生のレポート、終わった?」
ソファー席の、漫画を持ち寄り騒いでる学生の群れを見ながら、なんとなしに話し始める。
「全然。俺がレポートを期日前に終わってると思うか?」
「いや、全然」
しばらくの沈黙。
口元をひくつかせながら切間が、
「なら聞くな」
「惰性って言葉があるじゃん?」
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