第39話「購買部へ行こう!」
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本編
「……うちの購買部にも置いてあるけど。……よかったら、見に行く?」
こくっ、と0.1秒で肯定の返事が返ってきた。
視線は逸らさず、頭だけ高速で頷かれた。
そのあまりの反応の速さに苦笑しつつ、
「じゃ、行こうか?」
促すと、彼女はもう一度大きく頷いたあと、そこで初めて能面のような無表情を崩して――
顔いっぱいの無邪気な笑顔を見せた。
とくん……、と心臓がはねる。
目も口も柔らかく細められたその顔は、さきほどまでの人形のような彼女と同じ人物とは思えなかった。
――こんな顔、出来るのか……。
気づけば両拳は握り締められていて、その掌は汗でびっしょりと濡れていた。
上芝(かみしば)大学の購買部は、街にあるコンビニとほとんど同じような経営体制になっている。
電光看板の下の自動ドアの中に足を踏み入れると、右手にレジと店員のおばちゃんが出迎え、真ん中に置かれた商品棚がまず目に入る。
その左側のスペースには学校で使うような参考書や筆記用具、それに雑誌や漫画なんかも並んでいる。
この辺が高校までと違って自由度が高いと思う。
奥には冷蔵コーナーが設置されており、弁当やおにぎりなどの日持ちしないものが並び、そして手前の商品棚の右側にタオルや電池なんかの生活用品に混じって、お目当てのパンコーナーが顔を覗かせる。
僕は彼女と並んで購買部に向った。
昼休みが始まった瞬間から始まる爆発的な喧騒は彼女と話してるうちに幾分和らいでおり、入ると購買部の中では5、6人の生徒がパンや雑誌を物色して歩き回っていた。
少し、心配になった。
僕なんかは混むのを経験則的に知ってるからいつも予め昼休みになる前に買っておいているが、今回はあの喧騒が終わったあとだ。
見ると、焼そばパンやメンチカツパンなんかの人気がありそうなものはその姿を消していた。
これで無かったら間抜けだな、なんて思いながら視線を流していくと――
――お、あった。
ギリ一個残ってたな。
目当てのパンを見つけ、それを指差しながら彼女の方を振り向き、
「これなんだけど、見」てみて、
と言い切るより早く彼女は僕の脇をすり抜けてそのパンを取り、その足でカウンターのおばちゃんに無言で差し出していた。
…………まっ、いいけどね。
呆然とする心を落ち着けて、とりあえずパンが"あった"場所をさしてた指を引っ込める。
その指で頬を掻きながら、様子を見る。
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