五十三話「準々決勝」

2020年4月26日

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 天寺は1番、Aブロックだ。

 蓮田選手は22番で、Bブロック。
 建末選手は30番――で、Bブロックの最終番号だ。
 この二人は準々決勝――次の試合でぶつかる。

 纏さんは44番で、Cブロック。

 慎二君は60番で、Dブロック――全選手通して、最後の番号だった。

 こういう関係で、天寺は次の対戦で、建末選手が蓮田選手を止める、と言っているのだ。

 視線を彼に移すと、空手衣を着ていた。
 当たり前なのだが、その格好は試合場で闘っていた、あの姿と同じだ。
 あの壇上で桁の違いを見せていた天寺司が隣で手を上げているという姿は、どこか現実感がなかった。

「あ、ああ……せっかくチケットもらったんだしね。そりゃ、来るよ……」

 緊張で声が硬いのが、自分でもわかった。
 しかし天寺はそれを気にした様子もなく試合場の方に向き直り、

「建末は、強い」

「……うん……確かに」

 実際、建末選手は強かった。
 天寺のような華やかさこそなかったが、その重厚な突進と突き、下段蹴りの前に、ほとんどの選手は自分の技を出すこともなく、後退させられるか、または胸から腹か足をやられ、倒された。
 それは異名どおりの戦艦のような重たさだった。

「他流派などに、後れは取らんだろう」

 ?

 そこで、疑問が湧いた。
 元か現在もかは知らないが、蓮田選手はムエタイ出身の選手だ。
 それを今天寺は他流派、と言った。
 ……ひょっとして天寺は、

「天寺、蓮田選手の試合、見てないのか?」

「見てない」

 一言でいい切った。

「オレ、普段は試合見ないんだ。相手の緊張感でこっちも疲れるから。さすがに次の対戦相手のとかは見るけどさ」

 そこまで言って、

『ゼッケン1番、天寺司選手。もうすぐ準々決勝を開始します。至急、試合場隅の赤コーナーにお越しください』

 アナウンスが流れた。もうじき準々決勝が始まるのだ。

 それを聞くと、天寺はスッ、と自然に立ち上がり、

「神薙も、準決勝ではセコンドについてくれよ。さすがに建末に勝つのはしんどいと思うからさ。応援があれば、頑張れる」

 そう言って、手を振って去っていった。
 その背中は広く、頼もしかった。
 1というゼッケン番号が、輝いて見えた。
 そして結局、
「――――」
 天寺が来た側とは反対に座りただ無表情に試合場だけを見つめ続ける妹である朱鳥が、なにか話すことは、なかった。





 天寺は勝った。
 しかし彼はいつものように控え室に戻らず、コート隅で試合場に厳しい表情を向けていた。

 そこに、二人の選手の名が呼ばれた。
 それに合わせて、二つの人影が現れる。

 一つは巨大で、いわれなければとても高校生とは思えないだろう。
 その筋肉は盛り上がっており、節ごとにはっきりと分かれていた。

 その頭は坊主に丸められており、その表情は、無かった。
 まるでロボットのような男だと天寺は見るたび思う。

 建末元示。

 一つは、とにかく肌が白い男だった。
 真っ白な、それこそ病人のような肌を持ったその男は、しかしその体はごつかった。
 建末のように盛り上がってるわけではないが、質量がある。
 まるで棍棒のような迫力が、そこにはあった。背もある。

 建末ほど、といかぬまでも、181くらいはあるのではないか?
 そして、その目はギラギラと粘着質だった。
 顔が、生き生きとしていた。

 天寺は、まるで白い悪魔みたいだな、と思った。

 蓮田夕人。

 二人が試合場で対峙している。
 一方は、無表情で、一方は、愉しげに。
 それは対極な対決だった。

 緊迫感で唇が乾き、天寺は舌で舐めとり――
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