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#51「ぼくの答え」

2020年10月7日

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目次
この記事を書いた人
青貴空羽

小説家にして極真空手家。
更に2年間の英国留学不治の病うつ病になった経験、オタク文化を発信する為ブログTwitterYouTubeを始める。

Twitter:@aokikuunovel

本編

「どこまで?」

「いける、ところ……まで」

「遼ちゃんッ!」

 母親が、ぼくたちの会話にカットインをかけてくる。
 声こそあげてこないが、他の看護士さんや事務員さんや渡河辺先生も、似たような表情だ。
 それを見て、理解する。

 なんでぼくは、棚多さんとの間に作り上げたものと同じような関係を彼らと、築けなかったのだろう?
 なんでぼくは、ここまでひとり、悟った気でいたのだろうと。

 そう、思っていた。
 わかっていたつもりだった。
 みんなの想いなんて。
 だから心を閉ざし、愛想笑いをして人生を無為に過ごしてきた。

 遅すぎた。
 なにもかも。

 わかるまでが。
 想いがもう一筋、左目を伝って落ちた。

「あぁ……」

「どうしましたかな、成海さん?」

 棚多さんの声はどこまでも、穏やかなものだった。

「人生って……温かな、ものだったんですね」

「そうですなあ。あなたの瞳には、そう映りますかな?」

 そう言うということは、棚多さんの瞳には別の人生が映っているということなのだろう。

「遼……」

 彼女が、ぼくの名を呼ぶ。
 だけどどう答えていいかが、どうしてもわからなかった。

 どうしようもなく、迷ってしまっていた。
 予想通り、ぼくがぼくの意思で心残りなく死ねたのは、さっきが唯一無二の瞬間のようだった。

 みっともないと思う。
 だけどどうしても、残念だと思う気持ちだけは湧いてこなかった。

 だからぼくは、棚多さんに尋ねる。

「棚多さん、ぼくは……いったい、どうしたらいいですか?」

「生きなさい」

 まさか彼女と同じ答えだとは思わなかった。

「生きる、って……」

「生きなさい、成海さん。ただわたしたちに出来るのは、どこまでもそれだけです。生きる。いつか死ぬ、その日まで。それだけです」





 ぼくはまた、勘違いしていたようだった。
 言葉は額面通りの意味ではなかった。

 ただ、ひたすらに生きる。
 必死になって生きる。
 生きるために生きる。
 成海遼として、生き抜け。

 人生の本質は、生きることに。

「……勝手に死んでは、いけないんですね」

「勝手に死にます、ひとは」

 もっともだった。
 苦笑してしまう。
 どうにもぼくは、人生というものに関して修行不足のようだった。

 そのあと母――おかあさんを見て、裕子さんを見て、他の看護士さんたちや事務員さんたちを見て、他のお医者さんたちを見て、渡河辺先生を見た。
 今ならその姿がなにを物語っているのか、わかる気がした。

 みんな、ただぼくに生きて欲しいと。
 生き抜いて欲しいと。

 それだけのことを、これだけの行動と想いを持って、ぼくに伝えようとしてくれていたのだ。
 ぼくの気持ちを、くみ取りながら。

 それは気の遠くなるような作業だったろう。
 希望も、そして時間すらもない。
 じれったくて、だけど急かすことも出来ず、ずっとそんな日々を繰り返してきてくれたのだ。

 ダメだった。

「……いきたい」

 言葉が、止められない。

「生き、たい……生きたい、どうしても、どうやっても、なんでもいい……生きたい、生きて、いたい」

 涙は零れなかった。
 ただ切々と、ぼくは思った。

 願うでもない。
 実現性は問題ではない。
 ただひたすら、欲した。

 生きたい。
 生き抜きたい。
 それはみんなのため、今までの日々のため、そして結果的にぼく、自身のために。

「生きたい……」

「わたしは……」

 その言葉に被さるように、彼女が呟いた。
 それにぼくは、視線を下ろす。

 彼女は、酷く穏やかな表情を浮かべていた。
 泣いているわけでも、笑っているわけでも、もちろん怒っているわけでもないが、かといって無表情でもない。
 ただ穏やか。
 そうとしか表現が出来ない面持ちで、こちらを見つめていた。
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