どうしよう?

2019年11月30日

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 ぼくは胸騒ぎに駆られていた。

 もう時刻は、3時になろうかとしている。
 既に一回、看護士さんが見回りに来たのを薄目で確認している。

 なにかあったのか?

 ぼくに嫌気がさしたのか?

 他のみんなと、同じように?

「…………」

 考えれば考えるほど、鬱だった。

 ぼくには子供の頃の記憶なんて、ほとんど残ってない。
 正直あまりに同じようなことばかりだったの毎日だったので、記憶にとどまるような出来事の方が少ないのだ。

 ただそれでも少なくとも、母は今よりは笑っていたような気がする。
 今よりも、面倒そうな顔を見せてはいなかったような気はしている。

 自分を鑑みる。

 ぼくは基本的に、相手の顔色を窺って行動している。
 ワガママを言った覚えはない。
 だからぼくは、良い子なはずだった。

 だけどぼくが心地よく感じるのは、棚多さんやマヤといる時だった。
 裕子さんや、渡河辺先生のような、無理を言わず理屈で考える――ぼくのような人間が相手の時では、なかった。

 ぼくはなにをしていたんだろう?

 こんな状況に追い込んだのは、他ならぬぼくじゃないか。

「遼」

「っ!?」

 とつぜん、耳元に聞こえた彼女の声にぼくは心臓がひっくり返りそうになるほどビックリして仰け反り返って、跳ねて、そっちを見ようと身体を捻って、だけどその弾みで扉側のベッドから、必然として――転げ落ちた。

 ドシーン、というみっともない音。





 それが夜の帳に、響き渡る。

 バタバタという足音が、廊下からやってくる。
 それにぼくは、我に返る。
 マズい。
 ベッドを見る。彼女はいつものようにベッドの脇に、ちょこんと腰かけていた。
 いつの間に来ていたのか? 疑問を浮かべる余裕もない。
 ぼくは咄嗟に彼女の肩を掴み、布団の中に押し込んだ。

 同時に扉が、開け放たれる。

 裕子さん。

「ど、ど、ど、どうしたんです成海さん? すっごい音しましたけど、ほ、ほ、ほ、発作ですか?」

 こんなに慌てた裕子さんを見るのは初めてで、正直若干ぽかーんとしてじろじろ見てしまうくらいには興味深かったけど、こっちはこっちでテンパってたのでなんどころではなかった。

 だからとにもかくにも現状を、説明じゃなくなんとか取りつくろろう、

「い、い、い、いやそのちょっと寝相悪くて寝返り打ったときにベッドから落ちちゃっただけでな、な、な、なんでもないですっ」

 テンパりがテンパりを生む、大いなる悪循環だった。
 これが人間同士の協力が産みだすという化学反応というやつなのかと深層の深層心理で思っていたかもしれないひょっとしたら。

 裕子さんはぼくの説明にほんのり納得したのか安堵の表情を浮かべ、

「そ、そうだったんですか……あーびっくりしましたよ。いつもお静かで手のかからない患者さんである成海さんの病室から大きな音がしたんですから……じゃあもう遅いですから、寝てくださいね?」

「あ、は、はい……?」

「確認したら、私も戻りますから」

「は、はぁ……」

 固まる。

 後ろには、布団。
 眠るには、ベッドに横になる必要がある。

 だけど布団の中には、マヤ。
 眠るには、彼女をどかすか、乗っからなくてはいけない。

 とうぜんどちらも不可、というか論外。

 どうしよう?

「? どうしたんですか成海さん?」
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