外の世界

2020年1月9日

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 タクシー乗り場まで、一緒に歩いた。

 手を繋いで、というか引っ張られて、いっぽいっぽ探るように。
 周りから見たらどんな風に見えるだろうと思っていた。
 兄妹だろうか、恋人だろうか、それとも別のなにかだろうか?

 タクシーの運転手は、車内でシートを倒し帽子を目深に被って腕を組み――眠っていた。

「……あの、」

 勇気を出して、声をかけようとした。

 だけど当然窓もすべて閉めきられているから、聞こえなかった。
 ぼくは一呼吸(おかげで肺の中が冷たくなったが)して、気合いを入れ直して、思い切って、右手を掲げて――コン、コン、と窓を叩いた。

 んあ? といった感じ運転手はあくび交じりに帽子を外しながら顔を上げて、窓をウィーンと開けて、

「くぁ、あ……あ? お客さん?」

 とてもお客さんに対する態度とは思えない。

 外の世界の人は、こんなにフランクに話すものなのかと軽い衝撃。
 ぼくはなんとか平常心――を装った笑顔を作り、

「はい、あの……お、お願いします」

 こういう場合なんていうかわからないから、とりあえずお願いしてみた。
 正直こどもじみて頭痛い言葉だと思う。

 だけどとりあえず運転手は理解したようで、

「ほい、どぞー」

 ドアが(自動で)開けられる。
 ぼくは一瞬躊躇し、その中に潜り込む。彼女もそれに続いた。

 タクシーの中は、暖かかった。
 シートは柔らかだった。
 それに一瞬眠りに落ちるんじゃないかってくらい、安心してしまう。

「ふぅ……」

「それでお客さん、どちらまで?」

 一瞬で、目が覚める。

 それを考えていなかった。

「あ、えーと……」

 ぼくは気持ちを切り替え、考えた。
 そして、困った。

 外の場所なんて、ほとんど知らない。
 とても困った。
 運転手さんは待っている。

 ぼくは縋るように、彼女を見た。

「スカイツリー」

 ふとすれば聞き逃してしまいそうな、呟き。

「スカイ、ツリー……」





「スカイツリーですね、どうもー」

 それをぼくは、無意識に、繰り返していた。
 それを運転手は聞きとめ、そして車は、走り出した。

 走りだした。
 どこか、目的地に向かって。
 その事実にぼくは胸を撫で下ろし、安心したのか無意識に窓から風景を、眺めた。

 夜の帳が下りているというのに、外の世界はずいぶんと明るかった。
 逆に消えている灯りの方が少ないぐらいだった。
 眠らない街という話は、本当だった。

 綺麗、だった。
 外の世界。
 光の、世界。
 真っ暗闇に、覆い尽されることのない世界。

 あの光ひとつひとつが、ひとの命なのだろう。

「お二人さん、学生?」

 ハッ、とする。
 いきなり、話しかけられた。

 その事実。
 今までに経験がないそれに、今までとの違いを思い知る。

 そうか。

 創作物の中ではカットされることが多いが、実際タクシー運転手は客に話しかけるという話を聞いたことがあった。
 そしてぼくは再び、戸惑う。

 だから頭のスイッチを、切り替える。

「――そ、そうです。彼女は妹でして、ちょうど家に帰るところなんですよ」

「あー、なるほど。しかしお客さん、帰るってのにこんな夜更けにスカイツリーまで、どんなご予定で?」

「――それが、親と待ち合わせをしてるんですけど、それが目立つしわかりやすいからということでスカイツリー前になったんですよ」

「あー、なるほど。そりゃあ難儀ですねぇ、見たところ病気してるみたいですのに」

「そうなんですよ、参りますよね」

 ぼくの対人スキルを発揮した受け答えに納得したのか、運転手は低く笑い声をあげた。
 それにぼくは、安堵のため息を吐く。

 外の世界では、いつでも試されているようだった。
 なかなかに気が休まる暇がない。

 不意にぎゅっ、と手を握られた。
 ぼくはなにかと思い、彼女の方を見る。

「手、握ってる?」 

 会話に集中して、力が抜けていたようだった。
 それにぼくは笑顔を作り、握り返す。

 彼女の手は、ひどく冷たかった。
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