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#34「感動」

2020年10月7日

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目次
この記事を書いた人
青貴空羽

小説家にして極真空手家。
更に2年間の英国留学不治の病うつ病になった経験、オタク文化を発信する為ブログTwitterYouTubeを始める。

Twitter:@aokikuunovel

本編

 初めて泣いた。

 テレビや本や漫画やその他もろもろの物語の中では登場人物たちはよく泣いていたけど、実際ぼく自身が泣くのは、初めてだった。
 泣くのに近い感情――憤りや、歯がゆさを感じることはあったが、泣くまでには至らなかった。
 せいぜい歯噛みし、鼻水を垂らすくらいのもの。

 この涙は、自然に出てきた。

 これが感動というのだと、実感した。

「遼、悲しい?」

 ぼくの顔を覗き込むように、彼女が尋ねる。

 それにぼくは以前と同じように目元を拭い、笑みを浮かべる。
 それは空々しい今までのモノと違い、ニカッと。

「いや、嬉しいよ」

 正直に。
 そう、思えた。

 東京タワーではなく、こちらに来てよかったと思える。
 彼女の言葉に、ぼくは救われた形になった。

「そう、よかった」

 そして彼女も、快活に笑った。
 二人して深夜に建設途中のスカイツリーの前で、ニカニカと笑い合った。

 それは周りから見れば奇怪な光景だったに違いないが、ぼくたちにとっては、なによりの冒険だった。

「遼、中に入る?」

「うーん、そうだね」

 笑いながら、ぼくは問いかけを吟味する。
 興味が無いわけではなかった。

 だが現実問題、それは難しいと思えた。
 周囲は工事現場にありがちな壁のようなバリケードで囲われていて、入口らしきものもあったがどう考えても鍵か何かがかけられている可能性が大だった。
 加えて外見はまとおもでも中は伽藍胴の可能性も高く、エレベーターが動いていなければ上にも昇れない。

 それになにより、

「ここは、外から見るからこそ綺麗な気もするしね」

「そか」

 マヤはそれ以上、追及してこなかった。
 それにぼくは言葉を重ねる労を回避した。
 助かった、というよりは、どこか安堵したというか、安心できる心地になった。

 あぁ、そうか。
 これが、ひとから肯定されるという安心感なのか。

 そしてしばらく、ぼくたちはスカイツリーを見上げていた。
 飽きなかった。
 飽きるわけなかった。

 初めて見て、そして感動したものは、飽きるまで間が空く。
 だけどぼくと彼女には、あまり時間がなかった。

 体力という現実問題が、ぼくたちを襲っていた。

「帰ろうか」

 ぼくは特に考えなく、呟いていた。

 行くあてもない。
 お金にも限りがある。
 朝が迫っている。
 帰らなくては、いけないだろう。

 すると彼女はひらりと軽快に振り返り、

「遼は、帰りたい?」

 難しい質問だったが、こう答えるしかないのも事実だった。

「帰りたいかどうかは微妙だけど、帰らないといけないと思う」

 既に手足の感覚はなくなりつつある。
 頭もぼんやりとする。

 ただ彼女と繋いだ手だけが、ぼくを支えていた。

「じゃあ、帰ろう」

 すると彼女はどうしたことだろう空いている方の右手を、空に掲げた。
 つられて見上げたが、偶然の満月が夜空を照らしているだけだった。
 そのせいか、星が少ない。

 意図が、読めなかった。

「? どうしたの、マヤ?」

「わたし、妖精なの」

 嘘みたいな、最初の頃の言葉。

「……マヤ?」

「だから魔法が、使えるの」

 一瞬眩しい光が、ぼくの網膜を焼いたようだった。





「それで気づいたら、病室だったと?」

 棚多さんからの問いかけに、ぼくは頷く他なかった。
 まるで夢みたいな出来事だ。
 というより、実際夢を見てたのかもしれない。

 いずれにしても、出来過ぎていると言って間違いないだろう。
 深夜の2とか3とか4時とかの筈の時間帯にスカイツリーの前で二人して帰ろうかという話をしてたっていうのに。

 魔法を使えるという彼女の言葉と共に現れた光に視界を奪われて。
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