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#42「本音」

2020年10月7日

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目次
この記事を書いた人
青貴空羽

小説家にして極真空手家。
更に2年間の英国留学不治の病うつ病になった経験、オタク文化を発信する為ブログTwitterYouTubeを始める。

Twitter:@aokikuunovel

本編

 結局ぼくは、最初から最後まで彼女のことは訊かなかった。
 聞きたくなかったわけじゃない。
 だけど訊いても、それは何かを産むわけでもなかったから。

 ぼくはただ、彼女が傍にいてくれればよかったから。
 だから核心に触れることは、出来なかった。

 だけど契約だったから。

 最後にぼくはなんでも、彼女のことは受け入れるつもりだった。

「遼は、死にたいの?」

「死にたいわけでもないけど……もう、生きたいわけでも、ないかな?」

 力なく、笑みが零れる。
 もう指一本、ぼくは動かせない。

 ただ、死を待つだけの身だ。
 もうぼくは、ぼく自身ですらない。

 もうぼくは、成海遼という人間ですらない。
 ならもう、本当の意味でぼくは人間として、出来ることはもはやない。

 ならぼくは意識があるだけで、もう屍と変わらない。
 ぼくは君にはなにも返せなかったから、ぼくを殺したいというのなら、拒む理由は何もなかった。

「生きたく、ないの?」

 だけど彼女は、なぜかしつこかった。
 生きたいわけでもないと、きちんと告げたのに。

 そしてぼくの癖が発動する。
 彼女の言葉の裏を、勝手に探り出す。

 なぜ再び確認するような真似をしたんだろう?
 そこに秘められているのは、彼女の本音のような気がする。

 彼女の、本音。
 心が、揺らいだ。

「きみは、生きたいのかい?」

 的外れな質問。
 彼女はぼくに訊いているのだ。
 しかも彼女は病気でもない。
 死にそうなのはぼくなのだ。

 でも訊かずには、いられなかった。

「わたしは……生きたい。遼と、一緒に」

「そうか」

 心が、一杯になる。
 気持ちが溢れて、目元から零れていく。

 あぁ、これが幸せという気持ちなのかとわかったら、もうそれだけで満足してしまった。

 ずっとぼくは、考えていた。





 考えていたことがあった。
 死を待つだけの病人は、なんのために日々を生きるのかと。
 意味はあるのかと。
 成せることは、なにかないのかと。

 それだけをずっと考えてきた。
 それ以外、することがなかったから。

 それ以外を気づかせてくれた彼女が、愛おしくて、愛おしくて、死にそうだった。
 心が満杯過ぎて、とても止められなかった。

 こんな何も無い、何も残せなかった、何も成せなかった、もう死にかけで、医者も家族も誰も彼も見限ったどうしようもなく無価値な人間と、きみは、一緒に生きたいと、言ってくれた。

 それは他でもない、成海遼という人間を認めてくれたということだった。

「ぼくは……生きてて、良かったのかな?」

 本音が、ぼくの本音が、絞り出された。
 それは優しく、愛撫されるように。

 彼女はそこで初めて、いきなり表情を劇的に変えるのではなく穏やかに、頬を緩めた。

「わたしは……一緒にいてくれて、嬉しかったよ?」

 彼女も初めて、本音を見せてくれた。

 結局寂しかったから、彼女はぼくの目の前に現れた。
 だけどそれはこの瞬間まで、言えなかった。

 いや違う一度言ったのだけど、ぼくの方に受け止めるだけの器量がなかった。
 余裕がなかった。
 ただ、それだけのことなのだ。

 ただそれだけのことが重なって、ぼくたちは本音をさらけ出さず、ここまできた。

「あぁ……ありがとう」

 感謝の言葉を、言えた。
 言えてしまった。

 それでぼくは、本当に満たされてしまった。
 漫画ならば天使に囲まれてる気分。
 このまま召されても、構わないと思えるくらいに。

「――遼」

 彼女が、泣き出す。
 ぽろぽろと、無数の涙をこぼして。

 肩を震わせて。
 手を固く、握り締めて。

 そんな姿、初めて見る。
 とても困ってしまう。
 そんな姿見てしまったら、心配で、安心していけなくなってしまうじゃないか?
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