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#15「刹那の夢」

2020年10月7日

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目次
この記事を書いた人
青貴空羽

小説家にして極真空手家。
更に2年間の英国留学不治の病うつ病になった経験、オタク文化を発信する為ブログTwitterYouTubeを始める。

Twitter:@aokikuunovel

本編

「なにが言いたいんですか? ぼくにはあなたが言っていることの、意味が一つもわからない。もっとハッキリと――」 

「成海さん」 

 それはふとすれば、聞き逃してしまいそうな小さな声。 

 何度目かの、ぼくの名を呼ぶ声。 

「……なんですか?」 

「聞こえませんかな? 雀の、さえずり声が」 

 一瞬、聞き間違えたのかと思った。 

「え? ……な、なんですか? す、雀……」 

「さえずり声ですよ。聞こえませんかね?」 

 その言葉にぼくは疑問符を浮かべ、そしてなんとなく、流されるように、耳を澄ましてみた。
 黙り、そしてじっと聴覚に意識を集中する。 
 
 向こうの、窓。 

  微かに、開いている。
 そこから、冬の冷たい風が少しづつ、吹き込んでいる。
 その中には、庭に植えられているだろういくつかの花の香りも、含まれている気がした。 

 そのなかに――彼がいうような雀のさえずり声も、混じっているような気がした。 

「……聞こえる気が、しますね」 

「人生とは、刹那の夢のようなもの」 

 静かだった。
 それも温かく、優しい静寂。

 それは夜、彼女が連れてくるなにかに似ている気がした。 

 だけどその中には、生命の息吹のようなものが満ちていた。 

「夢、ですか?」 

 夢、とはどういう意味でこのご老体は言っているんだろう?
 よく創作物の中では、使われる単語ではある。 

 人生は夢のように儚いものだから、その間にやりたいことをやれ。
 後悔を残すな。
 精一杯生きろ。 

 確か概ね、こういった意味だったと思うが。 





「そう、夢。あまりそうせかせか生きては、見逃してしまいますぞ」 

「見逃すって、なにをですか?」 

「人生をですよ」 

 窓の外を見ながら、ぼくは棚多さんの言葉を聞いていた。
 不思議な心地だった。

 思考が、停止している。
 意味や意義やそこに至る経緯に理由やその結果や、その他もろもろのなにも考えてはいない。 

 ただ、純粋に。
 匂いに、風に、音に、身を、任せていた。 

「人生を見逃すって、どういう意味なんですか? 人生は、ひとが、こなしていくものでしょう?」 

「そうでもないですな。たとえば成海さんはいま、人生を楽しんでいるかというわしの質問に、病院から出たことがないからわからないと答えましたな?」 

「そう、答えましたけど?」 

「それが、人生を見逃すということなんですな」 

「なにをどう、見逃しているんですか?」 

「いまも見逃しておったでしょう? 雀のさえずりや、冬の空気を」 

 それに、耳を澄ませる。いつの間にか雀は飛び去り、その代わりのように子供たちの笑い声が聞こえた気がした。 

「……確かに、見逃していました。でも、だからってなんなんですか?」 

 それがわかったからといって、なにが変わるというのか?
 花の香りが、小鳥のさえずりが、子供たちの笑い声が、ぼくになにをもたらすというのか? 

 ぼくが欲しいものは、そんなありふれたあたり前のものじゃない。

 外の世界だ。

 仲間だ。 

 ぼくは絆が、欲しかった。 

「だから、とはなんですかな?」 

 だがぼくの問いに返ってきたのは、答えじゃなく問いかけだった。 

 ぼくはさらに戸惑う。 

「いえ、その……あの、なにが言いたいんですか?」 

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