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#41「死」

2020年10月7日

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目次
この記事を書いた人
青貴空羽

小説家にして極真空手家。
更に2年間の英国留学不治の病うつ病になった経験、オタク文化を発信する為ブログTwitterYouTubeを始める。

Twitter:@aokikuunovel

本編

 死がどういうものか、実のところぼくは考えたことがなかったのかもしれない。

 死とは、訪れるものだと思っていた。
 そして優しく、すべてを奪っていく。

 そういうものなのだと、創作物やテレビを見て勝手に想像していた。
 事実それに近い表現で、そのどれにでも描かれていた。

 だから死は美しいものなのだと、勝手に解釈していた。

 どうもそれは、違うようだった。
 かなり近い部分で体験してみて、思う。

 死とは、定型があるわけじゃない。
 概念といえばそれに近いかもしれない。
 現象、ただそれだけともいえるかもしれない。

 死とは、結果だ。

 肉体が生命活動を停止した"あと"に訪れる、状態。
 それを、死という。
 そこには美しさも、在り方もなにもありはしない。

 ただ、抜け殻がそこにあるだけだ。

 死とは、恐怖の対象ですら、なかった。



「遼」





 誰かが、遠くでぼくを呼んでいる。

 誰だったのか、どうしても思い出せなかった。
 それに、胸が締め付けられる心地がした。

 苦しくなる。

 それは紛れもなく、恐怖だった。
 でもぼくはなにが怖いのかが、わからなかった。

 死は、怖くない。
 ただ奪われ、そしてぼくはぼくでなくなるだけだ。
 ぼくでなくなったあとの心配をしてなんになるというんだろうか。

 でもなにかが、怖かった。
 たまらなく。
 何かがわからない。
 わからないことが怖いのか?
 そんなことが、ありうるのか?

「遼……起きて、遼」

 ぽた、と何かが頬に当たる。
 冷たい、水気。

 その名前をなんとか、思い出す。

 涙。
 泣いて、くれている。

 ぼくのために、泣いてくれている。

「どう、したんだい……マヤ」

 パキン、と頭にネジがハマったような感覚だった。
 思い出したかったのは、それだった。

 彼女の名前。
 彼女との思い出。
 彼女の、存在。

 目を、見開く。

 そこにいつものように、彼女がいた。

 ぼくを無表情で、見下ろしていた。
 そこに幾筋もの涙を、流して。

 怖いのは、恐ろしいのは、彼女のことを忘れてしまうことだった。

 思い出しか、あの世には持っていけないという。

 だけど思い出すら持っていけないとするなら、ぼくはいったいなんのために生まれたのか?
 いったいなんのためにあんなに辛い日々を生きてきたのか?
 ぼくの人生は、なんのためにあったのか?

 すべて、わからなくなってしまうだろう。

「マヤ……ぼく、は」

「寂しいの、遼?」

 こんな日があったような気がするが、いまいち思い出せなかった。
 ただ、寂しいのはぼくじゃなく彼女のような気がした。

 だから必死に、声を出した。

「寂しい、のかい? マヤ」

 マヤはなぜかぶるんぶるんと頭を振った。
 流れていた涙が、噴水のように飛び散った。

「じゃあ……なぜ君は、泣いてるんだい?」

「遼が、寂しそうだから」

 違う、と思った。

 たぶん彼女は、嘘をついている。
 それが直感的に感じられた。
 だから、言った。

「ぼくが、死ぬからかい?」

 彼女は、なにも言わなかった。
 ぼくも、なにも言えなかった。

 ただ、時間が過ぎた。
 ぼくは彼女を見上げ、彼女はぼくを見下ろし続けた。

 それだけだった。
 だけどぼくは、満足だった。

 彼女のことを、覚えておきたかった。
 その姿を、目に焼き付けておきたかった。
 忘れたくなかった。

 彼女との思い出くらいは、持っていきたかった。

「遼は、いいの?」

「なにが?」

 わからなくもないが、だけどそれは彼女に語って欲しかった。

「死んで、いいの?」

「君はぼくを、殺しにきたんだよね」

 最初の言葉を、ぼくは忘れてはいなかった。
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