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#43「ままならない」

2020年10月7日

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目次
この記事を書いた人
青貴空羽

小説家にして極真空手家。
更に2年間の英国留学不治の病うつ病になった経験、オタク文化を発信する為ブログTwitterYouTubeを始める。

Twitter:@aokikuunovel

本編

「マヤ……」

「遼、遼、遼……わたしは、わたしは、どうしたらいいの?」

「マヤがしたいように、すればいいと思うよ?」

 もうぼくがしてあげられることは、なにも無いのだから。

「だったら……遼は、生きてよ」

 掠れるような言葉だった。
 振り絞るような言葉だった。

 ぼくのことを思い、溜めて、決して吐き出さなかったけれどついに零れてしまったような、それはそんな言葉だった。

 ぼくはもう、心に蓋をするのを、諦めた。
 彼女のためだったら、どんな禁忌だって、おかしてみせる覚悟だった。

 彼女のためなら、悪だって善へと変わるだろう。

「ぼくは、もう、生きることはできない……身体がもう、ダメなんだ。だから……」

「遼が死んだら、誰がわたしといてくれるの? 誰がわたしとご飯を食べてくれるの? 誰がわたしと話してくれるの? 誰がわたしの寂しさを――埋めてくれるのっ!?」

 真っ直ぐな言葉は、ぼくの胸を突き刺すようだった。

「ごめん……ぼくは、もう……一緒には、いてあげられない」

「遼ッ!!」

 ひとはこんなに誰かのことで、大きな声を出せるのだ。

 ひとはこんなに誰かのことで、感情を爆発させることが出来るのだ。

 彼女はぼくに掴みかかるように胸元に縋りつき、

「遼、死なないでッ! わたしと一緒にいてよっ、わたしと一緒に生きてよっ、一人で勝手に、死なない、でよ……ッ!!」

 もう、理屈もなにもない。
 ただがむしゃらに、ぼくに感情を叩きつけるだけ。
 それをぼくは、ただ受け止めた。

 この世界が、いまこの瞬間終わってしまえばいいと思えた。
 それぐらいに彼女を、ひとり残して逝きたくないと思った。

「……まま、ならないね」

 ぼくはふと、呟いていた。

 ままならない。
 ほんの少し前まで、ぼくは死んでもいいと思っていた。
 だけど彼女の泣き声に、なにがなんでも死にたくないと気持ちが変わってしまった。

 だけど現実は、一ミリも変わらない。
 やっとこちらが受け入れたっていうのに、なんて無情なんだと思う。

 それが現実だっていうんなら、そんな現実消え去ってしまえばいいとさえ思った。

「遼……遼、遼、遼、りょ、う……ッ!!」



「妖精だって、言ったよね?」



 ぼくの言葉に、彼女の肩が震える。

 叫び声が、止まる。
 それにぼくは確信を覚える。

 そしてぼくは言うつもりなど決してなかった言葉を、口にしてしまう。

「魔法を使えるって、言ったよね?」

 彼女は微かに、その顔を上げた。

「……遼?」

「魔法、使えるの?」

 ぼくは出来るだけ優しい眼差しで、彼女を見つめた。

 ぼくの言葉に彼女はただ戸惑ったように瞳を揺らして、

「……つかえる」

 それにぼくは子供に囁くようにゆっくりと、

「マヤ……ぼくの望みを、叶えてくれる?」

 彼女は身を、乗り出した。
 決して彼女の方から、それは言わなかった。
 そこにはきっと、理由があるのだろう。

 だけど今回、ぼくの方から望んだ。

「遼は、なにをしたいの?」

 ぼくは彼女から視線を逸らし、天井を見上げ、言った。

「月が、みたい」





 ぼくは彼女に車いすを用意してもらって、屋上へと続く廊下を進んだ。
 彼女は黙って、それを押してくれた。

 一歩一歩、踏みしめるように。
 その音が、まるで死への十三階段を連想させた。
 自分のブラックジョーク好きに、頭が痛くなる心地だった。

 点滴も何もなくなると、身軽になった代わりに、酷く心もとない気持ちになった。
 それが現実として身体に影響があるのかどうかはわからない。

 それに加えて彼女は道中、なにも言わなかった。
 まるであの夜、寒いなか病院服一枚で一緒にスカイツリーを見に行った時を、思い出させた。

 なんだかすごく遠い日のようだった。

 なんだかすごく、懐かしかった。

「……ねぇ」
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