#11「クリスマス②」
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本編
思わずという感じで、言葉が漏れていた。
きっと、気の緩みなのだろう。
誰もかれもロビーに集まり、みんなでケーキを食べて、クラッカーを鳴らし、歌をうたっているのだろう。
みんながみんな、楽しく過ごしているのだろう。
この孤独は、ぼくが選んだものじゃない。
そう叫び出したい衝動に駆られたことも、一度や二度じゃない。
だけど結局、叫び出さなかった。そんな意味を、結局ぼくは見いだせなかった。
だけどあとひと月足らずで、ぼくの時間は終わりを迎える。
もう年月を重ねることもない。
事ここに至ってぼくは、意味を見いだす意味を見いだせなくなっていた。
非常にわかりづらい文面だが、行動のひとつひとつに、本当に意味を見つけられなければ行動しない方がいいのか? という意味だった。
意味ばっかりだ。
天を仰ぐ。
蛍光灯が、無機質な明かりを辺りに撒き散らしていた。
ぼくが十七年間、お世話になった光だ。これだけぐらいしか、ぼくに付き合ってはくれなかった。愛着さえ、湧いている。
だから夜が嫌いだった。
強制的に眠りを強要することが、嫌で嫌で仕方なかった。だけど今は、夜を心待ちにしているぼくがいた。
ぼくは思わずといった感じで、銀のお皿の覆いに手を、かけていた。
開くと、中には七面鳥の丸焼きが入っていた。
驚いた。
丸ごと入ってるだなんて、思ってもいなかったからだ。
とても一人で食べられる量じゃない。というよりも、これはみんなで分けるものだ。
なぜここに?
考えが至らないわけじゃない。
最初から裕子さんは、ぼくを連れてこの七面鳥の丸焼きを、談話室で、"みんなで"食べる予定だったと。
手を、翳す。
既にそれは、冷めていた。
談話室なら、充分に暖が取れていただろう。
なにより人の熱気がある。こんなに長い時間、放っておかれることもなかっただろう。
思わず、零れそうになった。
「っ…………!?」
それに慌ててぼくは自分の膝に、顔面を押し付けた。
悲しいというより、哀しいという漢字の方が合っていると思う。いや感じか?
そんな言葉遊びは、もう充分だった。
そんな仮初めより、実が欲しかった。
以前ぼくは自身の裕子さんとの会話を、ぼく自身のようだと思っていたことがある。
その通りだと思った。
なんで取り繕ってきたのだろう?
なんでぼくは本音を叫ばなかったのだろう?
「っ……く、ぅ……!」
あとの祭りだった。
もうぼくは、どこにも行けない。
詰めだった。
この病院からぼくは抜け出せず、そして一ヶ月経たず、なにもなせず、ぼくはこの世からお別れする。
なんて実のない人生。
なんて意味のない人生。
冷たくなってしまった七面鳥。
食べられるために焼かれたにもかかわらずこんな場所に放っておかれたため、冷たくなり、そのままただ、朽ちていく。
裕子さん。
なぜここに、置いていったのか。
それがわかる。わかってしまう。
多分、押し付けたのだ。
面倒だったのだ。
だから、ただ。
ぼくはなんなのか?
いったいなんのために、存在しているのか?
苦しかった。
悔しかった。
そこまでわかっていてもなおそのレールの上をいくしかない自分が、死ぬほど哀しかった。
「くっ、つ……ちく、しょう……ッ!」
歯を、食いしばった。
固く、毛布を握り締めた。
なにをしたってなにが変わるわけじゃないとしたって、だけど――
「かなしいの?」
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