第64話「真夏の陽炎」

2020年4月4日

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「えーと……じゃあ、アクセサリー屋は、どう? それ」

 ともやっぱり帰る? と続けようと思ったが、それを遮るように彼女は、

 頷いた。

 僕たちが向かっているアクセサリー屋は、当初の予定ではあまり歩かなくて済むようにゲーセンの近くのものを選んでおいた。

 だが今回、切間というイレギュラーが発生したためそこからかなり離れた位置まで来てしまったため、結果かなり歩くことになってしまった。

 隣で歩く黒い彼女すら白く染め上げようとする強烈な日差しに、僕は眩暈を起こしそうになる。
 コンクリートが熱を持ち、スニーカーを焼き上げようとする。
 やはり外を歩くのはきつい。

 ――暑い。
 日差しは二時に近づくにつれ、ますます強さを増していた。

 車が舞い起こす風はさながらストーブの熱風のように感じられた。
 街路樹にいるのだろう蝉も汗を搾り取ろうとするように全生命力をかけて鳴き尽くしている。

 額の汗を拭った。
 何度も拭ううちに、手の甲はふやけていた。

 上着なんて着てこなきゃ良かった、そんなことを考えた時、ふと、隣で淀みなく歩く彼女は暑くないのか? という疑問が湧いた。

 長袖だ、手袋だ、帽子だ、長髪だ、ハイソックスだ、ローブーツだ。
 しかも、全部黒だ。

 夏においては日差しを吸収する、忌避される色。
 これで暑くないとかいうやつがいるとしたら、そんなのは人間じゃないと思う。
 そんな風に考え目線だけで彼女の肌を追う。

 僅かに露出している所は、顔と首。
 それに膝の下辺り、スカートとハイソックスの間の足。

 その晒された白い肌には、薄っすらと汗が滲んでいた。

 だが、僕みたいにだらだらと垂れてはいない。
 暑さに強い体質なのだろうか?
 それにしたってこんな暑い中、そんな黒い厚着をする必要はないと思う。

 その格好に何か意味はあるのだろうか?
 彼女は無表情のまま歩き続ける。

 その黒い姿はまるで――幽鬼のように、僕の歪んだ視界の中に映った。

 頭を振る。
 あまりの暑さに脳が湯立ち、頭がぼやけている。
 よくない。

 とにかく喋りかけよう。
 話をしよう。

 考えてみれば、僕は彼女に質問ばかりしてた気がする。
 だから今回は彼女が楽しめるように――僕が出来る範囲でだが――考慮してみようと思う。
 まずは……

 彼女の方を向く。


「いやあ……今日は暑いね。まだ六月の初めだっていうのに、まるで真夏並だ」

 頷く。

「それでさ。さっき一緒にうどん食べた、切間っていたじゃん?」

 頷く。

「……あのうどんは辛かったねぇ」

 ぴくぴく、と唇が微かに痙攣した。

「で、切間なんだけど。金髪で、行動も含め軽そうに見えるけど」

 横目で僕の方を窺う。

「実はあいつ、古くから代々伝わる由緒正しい剣道場をやってる家の一人息子で、本人も、もう十四年間も剣道の稽古を続けてるんだって」

 練習じゃなく稽古、という表現を使う辺りに自分の空手の職業病みたいなものが出てるのを感じた。

 彼女は横目に加えて細かく瞬きを繰り返している。
 やっぱりあの男がが剣道をやっている、というのが意外なのだろう。

「そんな男が、なんで今みたいになったかというと」

 彼女は再び正面を向く。
 ただ、聞き耳だけはじっと立てている様子が窺えた。
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