第90話「バスの中での自己紹介②」

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 笑ってた。
 背筋が凍りついた。

 ゲーセンでのエアホッケー以来の、あの完璧すぎて恐ろしくすらなる笑い方だ。
 目も口も線にして、小首すら傾げて、だけどそこには感情の一片も感じられない。
 そういう凄い笑い方をしていた。

 敵もさるものだ……敵じゃないけど。
 そう思い、神龍の方も見る。

 こっちも笑ってた。
 口元だけを吊り上げて相手を見下ろす、いかにも好敵手を見つけました的な笑い方。
 何か企んでます的な笑い方。
 その瞳には善意の一欠片もなく、あるのはただの敵愾心。
 擬態語がつくならいわゆる『ニヤリ』

 完璧な笑顔と、敵愾心剥き出しの笑顔。
 その二つの不気味な笑顔がぶつかり合い、張り詰めた緊張感を作り出していく。
 ぴりぴりと空気が帯電していく。
 どんどんいたたまれなくなっていく。

 ……隼人は?
 ふと思い、横目で見る。

 やっぱりこいつも笑ってた。
 いつもみたいに、にこにこと。
 こっちは善意という感情で笑うことしか知りませんと言わんばかりの満面の笑顔。
 なんかこの場においてはむしろそれは彼女より恐く感じたり!

 車内で交錯する、完璧な笑顔、敵愾心剥き出しの笑顔、満面の笑顔。
 お互いがお互いの笑顔を主張し、誰一人としてそれぞれの笑顔を崩さず今まで以上にぴん、と空気が張り詰める。

 そこに僕は突っ込みを入れる。
 誰か喋れよ……。

 言葉にはならなかった。
 僕は、早くもこの企画を立ち上げたことを後悔し始めていた。



 最初の三十分は楽しかったのに、次の三十分は笑顔と無言に耐えて、次の三十分に負けて自分まで笑顔を作り出し、次の三十分はそんな自分に落ち込んで、さらに次の三十分をやっぱり笑顔で過ごして少し頭が狂いだしたかなぁ、と思い出したところでバスは目的地に着いた。

 照ヶ崎海岸入り口前。
 舗装などまったくされていない田舎道に降り立ち、十分ほど薮と蚊と日差しと蝉の音に苛まれて、到着した。

 初めて来た有名な市の観光地は、噂通り閑散としてた。
 六月半ばの真夏日で、さらに週末の土曜。
 しかも一番熱くなる昼間の二時過ぎだというのに、来ているのは子供が一人とその親らしき女の人が一人いるだけ。
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