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#39「月が綺麗だ」

2020年10月7日

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目次
この記事を書いた人
青貴空羽

小説家にして極真空手家。
更に2年間の英国留学不治の病うつ病になった経験、オタク文化を発信する為ブログTwitterYouTubeを始める。

Twitter:@aokikuunovel

本編

「…………」

 数秒、意味がわからず、意識がトンだ。

 いや実際にトンだのとは、少し違うと思う。
 どちらかというと、焦点が合わなくなった、という表現が近いか。
 あの、見ているにもかかわらず、視えないというか。
 把握、していないというか。

 どうだっていい。

 理解した。
 だからこそ余計に、戸惑った。

 いや、違うのか?

「…………」

 なにも、喋れない。
 というよりは、喋る気が起きないというべきなのか?

 もっといえば、動けない。
 同様に、動く気がしないというか。

 こんな状態、初めてだった。

 なにもかも完全な形で、満たされているというか。
 もう、なにも求めるものも、変化することも望まないという状態は。

 時が、流れた。
 時間感覚は、もはやその概念すら形骸化していたといっていいだろう。

 ぼくはただ、その感触に浸ることのみに、すべてを費やしてた。
 感覚も。
 思考も。
 想いも。

 ぼくはもはや人間ではなく、現象の一つとなったといっても言い過ぎではないかもしれない。

 だけどどうしても、物事には終わりというものが訪れ。
 彼女から、それは離れていった。

「あ…………」

 思わずといった感じで、ぼくは声を漏らしていた。

 名残惜しい。
 それが飾り立てない本当の想いだった。

 離れたくなかった。
 終わりにはしたくなかった。

 それは初めて玩具を与えられた赤ん坊の心境に似ているのかもしれない。

 正気に戻るまで、数瞬を要した。
 そのあいだに、彼女は笑った。

 にっこりと。
 天使じゃないかと、錯覚するくらい。





「…………マヤ」

 それに不思議と、心は落ち着いていった。

 二度目の魔法かなんて感がたら、不思議と納得していったから不思議だった。

「どうしたの、遼?」

「いや――どうしたのって、きみごあいさ――すごいね」

 二度も言いなおす羽目になってしまった。
 理解を越えた返し、というより思考。

 彼女はいったいどんな想いでここに立っているのか、不意に気にかかった。
 ぼくの独りよがりでないことを、祈るばかりだった。

 彼女はくりっ、と頭を傾げる。

「なにが、すごいの?」

「きみの、その答えがだよ」

「そう?」

「うん。あのさ」

「なに?」

「ぼくのこと、どう思う?」

 言ってしまったあとに、言ってしまったと思った。
 ほとんど考えなしに返事して、そして喋ってしまった。
 聞いてしまった。

 かなり、とんでもない質問を。

「遼のこと?」

「あ、うん。ぼくの、こと」

 かなりこっぱずかしくなって訂正しかけたが、言葉は弾丸という台詞がなにかの本に書いてあった気がするのを思い出した。

 一度放ったそれは、二度と取り消せない。

「好きだよ」

 あんまり自然に言うから、一瞬聞き逃しかけた。

「へ、え、ぇえ~……」

「どうしたの、遼?」

「い、いや――」

「遼はわたしのこと、好き?」

 ぶほっ、と吹き出しそうになったのをなんとか口の中だけで留める。
 因果応報、という言葉が脳裏に浮かんだ。

 覚悟決めなければいけないな、と深呼吸した。

「ふぅ……あ、う」

「なんてね」

 ん、という時間をくれず、彼女は言葉を遮り、ひらりと身をひるがえした。

 青いワンピースと長い髪が、目の前で大きく翻る。
 窓の向こうを見る、彼女。
 その背景には、美しく大きな明るい月が輝いていた。
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