#40「甘い会話」

2020年4月4日

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 ここはどこなんだろう、と不意に思った。
 夢なんじゃないかなんて、思ったりした。

「マヤ……きみは、きみはさ」

「なに、遼?」

「きみは……そか、妖精、だったもんね」

「妖精だよ」

「魔法が、使えるんだもんね」

「魔法、使えるよ」

「そか」

 やっぱり、会話は、続かない。
 それが初めて、惜しいだなんて思ったりした。

 ぼくたちの会話には、考え方がない。
 というより、裏がない。
 意図が無い。
 だから次を考えてないから、あとに続かない。

 それはプレッシャーもないが。

 潤滑なコミュニケーションにも、繋がらない。

 少し、考えてみるべきかと、思ったりした。
 彼女と、喋りたい。
 たくさん。
 色んなことを。
 甘い会話を。

 ――なんて。
 どうしようもない夢想を、したりした。

「あのさ、マヤは……」

「なに? 遼」

「いま、なに考えてるの?」

「遼のこと」

 びっくりするくらい、甘い会話だった。

「――――そ、う」

「うん」

 だけどあまりに甘くて、面喰ってしまって、結局会話は続かなかった。
 そして諦めた。
 なにをどう考えてもぼくが会話の主導権を握ることは、ないのだと。

 だから、委ねた。

「ぼくの、なんのことを考えてるの?」

「遼が、なに考えてるのかなって」

 面喰った。

「ッ!?」

 不意打ち過ぎた。
 予想の斜め上過ぎた。
 びっくりし過ぎた。





 それにどうしようなく、仰け反ってしまった。
 いくらなんでも、これはあんまりだった。
 これはいくらなんでも、彼女は――

「ふふっ」

 それに別の意味で、面喰った。
 今度は深く、窺うように。

 いま聞こえたのは。

 なにをどう考えても――笑った、のか?

「……マヤさぁ」

「な、なに? 遼?」

 振り返った。
 笑っていた。
 今までみたいに無邪気にじゃなく、楽しげというか、愉快げに。

 悪戯が成功した子供みたいに。
 まさか、と思った。

 次に笑いが、込み上げてきた。

「ふふ……ふ、ふふふっ。マヤぁ、きみ、わざとやったね?」

「ふふふ、ふふ。うん、わざと」

「マヤぁ……ぼくをバカにして、楽しい?」

「うん、たのしい」

 一瞬の間、ぼくたちは互いの顔を見合った。

 そして、笑った。
 爆笑じゃない。
 小さく、噛み殺すように、噛みしめるように。

 夜の病院は、お静かに。

 それもまたツボに入って、ぼくたちはひたすらに笑い続けた。
 本当に、楽しく。
 バカにされたっていうのにこんなに笑うっていうのはどうかと思えるくらい、笑いに笑った。

 そしてしばらくして。
 思い出したように、ぼくたちは抱き合い。

 そして、キスした。

 これから先どうなろうと、この夜の出来事だけは、永遠だと思えた。
 こんな一日が送れたことが、ぼくの誇りになった。

 あたり前に、女性と一日を過ごした。
 一緒に同じものを食べて、同じものを観て、そして読んだ。
 同じものを、共有した。
 こんなに嬉しいことはない。

 ひとは孤独ではないんだと、実感できた。
 もう思い残すことは、なにもなかった。

 そしてその夜、ぼくは再度発作に見舞われた。
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