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2020年10月9日

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目次
この記事を書いた人
青貴空羽

小説家にして極真空手家。
更に2年間の英国留学不治の病うつ病になった経験、オタク文化を発信する為ブログTwitterYouTubeを始める。

Twitter:@aokikuunovel

本編

 ああ、とマテロフは納得したような心地になった。

「そうか……そうか」

 確認しようとして、その行為そのものが要らないとわかった。
 だから単刀直入に、それに応えよう。

「なんで君に優しいかっていうのは……単純に、優しくして"欲しいからさ"」

 一見して矛盾した答え。だからアレはまたも一瞬目を点にして――そのあと柔らかく、微笑んだ。

「……わたしたち、友達になれますか?」

 手を、差し出される。
 その意味を彼女は知っているのかと思い、しかしそんな考えの無意味さをマテロフは悟った。

 知っていようといまいと、そんなことより大事なものが彼女にはきっとあるのだろうと考えて、

「わからない。だけど……可能性が、ないとは言えないな」

 やはり自分なりの飾らない言葉で、応えてみた。
 それが相手にどう映ったのかまではわからないが、アレは笑顔をさらに眩しいモノに変えてくれた。


 風呂に、浸かる。
 浴場は、誰もいなかった。
 それに心休まる。

 公衆浴場は、苦手だった。
 世間ではそれは娯楽であり、冷浴室、温浴室、熱湯室、サウナが備えられ、体育室、ダンス場、図書館、競技場などの娯楽施設も十分に完備され、食べ物や飲み物も色々と売られ、そしてなにより娼婦を斡旋したりの、そういうものだ。

 それは自分には、必要が無いものだ。
 女などわざわざそういう場所で見繕わなくても、自分好みの女を行く先々で買えばいい。

 風呂は風呂、女は女で、なぜ分けて考えられないのか。
 もはや疑問ですらないが。

「……ハァ」

 息が、漏れる。
 風呂はいい。ベトはその行為自体は気に入っていた。

 心から、休まる。
 落ち着く。
 出来ればこの場所のように、一人でこうして心の底から弛緩したかった。
 まぁこんな機会、年に一度すらもないが。

「お背中お流ししましょうかー?」

 いや、ありえねぇだろ?

「いや、ありえねぇだろ?」

 思わずベトは思ったまま呟いていた。

 そしてギギギ、とゆっくり振り返る。
 うわ、と思った。

「うわ……」

 と言った。

 ベトが浸かる、ゆったりとした聖堂の広い浴場の、その入口にプライヤが、そのしなやかな肢体を露わにタオルひとつ巻いた状態で、三つ指ついてこちらを向いていた。

 ヲイヲイ、いまそういうのはいいって言った……じゃなく思ったばっかりだろ? とベトはボリボリ頭をかく。
 もうふけは出なくなっていたが。

「では、お流ししますねー」

 にぱ、と笑顔で立ち上がり、そしてずいずいこっちにくる。

 それにベトはおいおいおい、と浴場の中で後ずさる。
 ばしゃばしゃ、と水音が立つ。
 まったく、この神聖な聖堂でなにやってんだ俺?

 ずる、と滑った。

 やっべ、普段風呂に入り慣れてないから――
 なんとか受け身は、とる。
 一瞬顔が、水の中に埋没する。

 息。
 顔を上げる。

 目の前に、胸にタオルだけ巻いたシスターが笑顔で迫ってくる。

「……おいおいおいおいおい」

「背中、お流ししますねー」

「い、いいって」

「良いんですね?」

 言葉遊びか。
 再び頭痛が、ベトを責める。
 理由は二日酔いではなかったが。

 にゅう、と両手が伸ばされる。
 それを咄嗟に手で弾き――と思ってる間に、真っ白い丸く揺れる柔らかそうななにかがふたつ、ベトの顔に覆いかぶさってきた。

 視界の端には舞い飛ぶさっきまでそれを覆ってたであろうタオル。

 むにゅ、という感触。

「……ちょ」

「はーい、一名様ごあんなーい」

 どっぱーん、と上がる水しぶき。
 なんだ、これ?
 もはやそういうのでさえないっつーの。

 せんせいはなに考えてんだ、と思った。
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