Ⅰ/悪魔憑き⑩

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 まったくわからない理屈だった。
 というより理解したくもない理屈だった。
 これ以上相手にすると面倒そうだった。

 ベトは立ち上がり、伸びをする。
 んー、酒を呑んだ次の日はすっかり調子が悪い。
 軽く運動でもするか?

 窓の外から、天気を見た。
 空は燦々と晴れていた。

「おー、晴れてんなー」

「お風呂に入りませんかご主人さま?」

 ビシリ、とベトの動きが凍りつく。
 一瞬天気も音も現状もなにもかも、ベトの脳から消え去った。

 ギギギ、とゆっくり下の方にある不思議シスターの顔を見る。
 プライヤはただニッコリと、満面の笑みを向けた。

「……いま、なんつった?」

「お風呂、入りませんかー?」

 脈絡もなにもなかった。
 いきなり風呂に入れだなんて、なにを考えているのか?
 まぁだが、このふけを見ればそう思うのも無理もないことなの、か?

「…………」

「ね?」

 見つめ合うこと、五秒。

 結局ベトは、先に折れた。

「……あー、そうだな。風呂、入るか」

「はい、おひとり様ご案内ー」

 先導するシスターについていきながら、ベトはなんだかあ、とまたも頭をボリボリかいていた。


 マテロフは結局、アレと一緒に街に訪れていた。

「アレは街に来たことは……無いよな」

「ありません」

 にこやかに答えられる。

 それにマテロフは、そうか、そうだよな……と一人ごちて納得する。
 そしてぽりぽりと、頬をかく。

 どうしたらいいか、判断に困っていた。

「えー、と……アレは、見たいものとか、行きたい所とか――」

「わからないから、マテロフにお願いします」

 途中言いかけて予想していた解答がきた。

 さて、マテロフは困る。
 見たいものも、行きたい所も、まぁ、ずっとベッドの上で暮らしていたのならそりゃあないだろう。
 そうなれば自然、マテロフの感覚で案内するしかない。

 ならば――

「……アレは、食べ物の好き嫌いは、あるか?」

「お肉は美味しかったですねぇ……」

 じゅるり、と音が出そうな恍惚の表情でアレは宙空を見上げる。

 おぉう、初出の表情だ!?
 今までの浮世離れしているイメージと乖離したそれに、マテロフは仰け反り、

「――なら、食べ物屋でもいこうか?」

「はいっ」

 無邪気。
 そう、一言で表現できる存在。
 疑いを知らず、すべてを嬉々として受け入れる。

 ――いや、違うか。

 マテロフはアレの様子を見て、じちょうする。
 すべてを、じゃない。

 好意を、受け入れる。
 嬉々として。

 だが残酷な運命も受け入れるが、それは哀しみを伴ってだ。

 ――いずれにせよ受け入れるんだ、この娘は。

 マテロフはアレの在り方に、強く惹かれていた。
 ずっと、同じ価値観で生きてきた。
 女性であることから諦めかけていた自分は、スバルに拾われ、弓矢をあてがわれた。
 それにより自分を守り、誇りを持って生きることが出来た。
 だからこれが、正しい生き方――というより、女性である自分に出来る、唯一の生き方なのだと信じて疑うこともなかった。

 だがアレの生き方に触れてしまった。
 考えざるを、得なかった。

「アレは……今まで、どんなことを考えて生きてきたんだ?」

 歩幅をアレの杖をつくペースに合わせながら、マテロフはアレに語りかけた。
 おそらくはこんな姿をスバルやベトが見たら卒倒すること間違いなしだろう。
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