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第59話「亀々うどん」

2020年10月7日

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目次
この記事を書いた人
青貴空羽

小説家にして極真空手家。
更に2年間の英国留学不治の病うつ病になった経験、オタク文化を発信する為ブログTwitterYouTubeを始める。

Twitter:@aokikukose

本編

 そう言って引き戸を引いて中に入っていく切間の背中は、不安以外の何物でもなかった。

 ……が、正直楽しみでもあった。
 彼女のペースが切間がいうようなものだとしても、やはりほの甘いデートもしてみたい。
 百戦錬磨の切間のお手並みに期待しよう。

 そう考えてあとに続く。彼女も影のようについてきた。
 店内はまんま一軒家を店にしたような内装で、本来靴を脱ぐ三和土(たたき)を靴のまま乗り越えるのには抵抗があった。
 狭くて短い廊下をいくとすぐにダイニングルームのようなところに出て、大体高校とかの教室半分くらいのスペースに木のテーブルと椅子が等間隔で十数個並べられていた。
 奥にはテレビが置かれ、左手の台所にあたるであろう場所で料理をしているような油が弾ける音や火が燃え上がる音が聞こえた。

 面白いと思った。
 こんな店に来たのは初めてだ。

 客の入り具合は昼時だというのに、大体半分ほどというところ。
 あのわかり辛い外装と、一見さんお断りの看板。
 やはりここは穴場的な店なのだろう。
 ひょっとしたら店主は趣味でやっているのかもしれない。

 そう考えていると切間が勝手知ったる様子で中に踏み込み、適当な四人がけのテーブルに座った。
 僕もその向かいに座り、彼女も僕の隣に座った。
 しばらく店内の様子を眺めていると、作務衣のような服を着て袖をまくった職人気質風な店員が、水を持ってやってきた。

「ご注文は?」

 ……まだメニューも見てないよ。

 僕はそう思って机の上に置かれたお品書きに手を伸ばそうとし――切間に手で、制された。

「今日は、オレのお薦めメニューを食べないかい?」

 芝居掛かった声で提案する切間に、僕と彼女は目を見合わせた。

 注文してから切間の、彼女と大学の講義とゼミのメンバーと今年の夏の猛暑に対する愚痴を聞き、二十分ほど経った頃、先ほどと同じ店員がでっかいお盆を両手で支えて現れた。

「はいよっ、亀々うどん三丁お待ち!」

 僕たちのテーブルの上に、『亀々うどん』なるうどんが三つ乗せられる。
 使い込まれた黄みがかった丸いどんぶりの中に、透明な汁と緑の薄く切られたネギと茶色いきつねと白く太い麺がとぐろを巻いている。
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