第42話「今日もお前ん家で作戦会議」

2020年10月8日

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目次

本編

「全然話すよ」

 切間はこともなげに答えた。

 時刻は昨日より一時間遅い、夜の十時半過ぎ。
 場所は同じく僕の部屋。
 あれから僕は道場の稽古を終えたあと、昨日とまったく同じように部屋の真ん中で切間に電話し、

「失敗したかも……」

 と切り出した。
 すると切間は僕がいくばくも話し始めないうちに

「今日もお前ん家で作戦会議」

 と言って電話を切った。

 そうして家にやってきた切間に先の出来事――骨の部分だけはちょっと突っ込んだことを訊いた、ということに差し替えて――の一部始終を話し、また話し掛けるかべきかどうかを相談したところ、先の言葉を言われた。

「別に拒絶された訳じゃねんだから……」

 パリパリと咀嚼して、

「……ガンガン行くべきじゃね?」

 ……ゴクン、と喉を鳴らして嚥下した。

 切間は床に広がるお菓子の山の中から、ポテトチップスの夏の新じゃが味をつまみながら言った。

 今日の切間も玄関から入ってくる時両手にコンビニ袋を抱えており、中には山のようにスナック菓子各種と様々なジュースが入っていた。
 僕の部屋のフローリングの床にはそれらが足の踏み場もないほどに散らかっている。

「でも、睨まれたよ」

 ざざー、と袋から直接口に流し込み、

「……睨まれたっていうのはもう、ダメじゃないかなぁ?」

 ぼりぼり、とそれを咀嚼した。



 僕も大好きな麦チョコを手にして尋ねる。
 僕は麦チョコさえあれば一晩中語れるくらいこれが好きだ。

 そんな時は指でつまんで、なんてしないで、袋からじかが粋だと思ってる。
 他のやつは食えなくなるけど。

「別に眉をひそめたり、敵意を持って見られたわけじゃないんだろ? 聞く限りでは」

 ゴクゴク……と喉を鳴らして缶を傾け、

「ぷはぁ――っ。……そゆのは睨まれたっていうより眺められたっていうんだよ。眺められただけなら、拒絶とはいわねーよ。お前が誰か芸能人とか知り合いに似てたんじゃねぇの?」

 切間はコーラを飲み干し、部屋いっぱいに息を吐き出して僕の肩を叩いた。

 一理ある、と僕は思った。
 確かにその時の僕はその得体の知れない瞳に恐怖を感じたが、敵意を向けられたわけじゃない。
 感情の灯らない目で"眺めれた"だけなのだ。

 そう考えると、切間の理屈は通る。
 眺める、という行為は相手の特徴をつぶさに観察する、つまりは誰かに似ていたかも、というその言葉も納得出来る。
 少し考えすぎたか。

「……ま、ちょっと突っ込んだことを訊いた、っていうのもお前らしいとは思ったわな。童貞は初対面で先走る」

「――ぶっ!」

 のんびりとウーロン茶を啜っていたから、思い切り吹き出した。

「お、お、お……お前よりにもよって露骨にそんな童貞とか!」

「ま……まぁまぁ、ちょ……落ち着けや」

 腹を抱えて笑ってる切間に殺意さえ沸いた。
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