ⅩⅣ/悪魔憑き⑧
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本編
「教会には、悪魔憑き――現在魔女という名称に統一しようとする流れがあるが、それの、」
「魔女? それは悪魔憑きが女性限定のもの、ってことなんですか?」
「いや、悪魔憑きは男性にも起こり得るさ。しかし男性の場合も魔女、という名称になるらしい。おれもよくわからんが、どうせ伝承から来ているんだろう。お偉方の考え方はおれにはわからんよ」
なはは、と肩をすくめる。
それにベトもはは……と苦笑いで応える。
閑話休題、オレアンは本筋に戻り、
「で、魔女の扱いについて教会側では思うところがあるようでな。傭兵としてあちこちに行っているお前にはわからんだろうが、現在各地の教会では魔女裁判というものが定期的に行われている」
「魔女裁判、ですか? なんすか、それ?」
「魔女かどうかを判断し、魔女と認定されれば刑を執行される。そういうものだ」
ベトはしばし、沈黙した。
「……魔女って、」
「刑を執行といっても、その前に命を絶たれるケースも多いらしいし、確定したらもちろんほとんどアウトという話だ。世知辛いな、世の中は」
「…………」
いくらベトが流れモノの傭兵といっても、噂ぐらいは耳にしたことがある。
しかし眉つばと思っている魔女の、さらに眉つばのような話だ。
あまり相手にはしていなかった。
しかし実際は、それは教会の横暴のような内容だった。
「難儀だな」
どちらのことについて言ったのか、オレアンは杯を傾ける。
なぜこれだけ呑むのか、少しだけわかった気がした。
ベトも杯を傾ける。
どうしたもんか、頭が痛かった。
半分くらいというか以上は、呑み過ぎという理由だろうが。
「……ここからはおれの見解になるが、聞くか?」
「もちろん」
せんせいの話を聞かないわけないっていうか小難しい頭でっかちの権力争いしてる教会の見解の方が興味ないですよ、とばかりに伏し目がちに頷くベト。
というか呑んだ3杯の酒――もとい聖水と小難しい話のオンパレードに、意識は半分ここではない場所に持っていかれていた。難儀だった。
「魔女かどうかを判断するのは、素人には難しい――と、おれは考えている。たとい周りや、難儀なことに当人が魔女だと考えていても、実際は精神的な思い込みやなにがしかの疾患である可能性が高いと考えている。だが、その境界線は曖昧だ。誰だって豹変する時ぐらい、あるからな」
それにベトはうん、うん、とふらふら頷く。
自分の場合は、戦いのときなんかそうだ。
あらゆる感情を振り払い、獣と化す。
憑かれているといえば、そうかもしれない。
「だからおれの見解としては、まず本人が知り得ない情報を持っているか。そして本人が成しえないことを行えるか。この、二点だな」
なるほど、とベトは合点がいく。
確かに憑かれていれば、その二つは出てくるのだろう。
帰ったら試してみようと思う。
だが二つ目に関して言えば――
「成しえない、といえば?」
「そりゃ魔法だな」
魔法。
「魔法って……っ、く……!」
強烈な睡魔に、ベトは頭を振るう。
限界に近い。
と思った時には限界などだと、ベトは経験則から悟る。
まだまだ聞きたいことは多いのだが、オレアンに付き合って酒など飲まなければよかったか?
しかしせんせいの厚意を弾くなんて――と考え、
「……すんませんせんせい、寝ます」
「ああ、いいよ。話はまた、あとで」
最後にオレアンのニッコリ笑顔を見て、魔法ってなんだろうなと回らない頭でベトは考えようとしていた。
たとえば、アレが動かない足で立っていたこと。
たとえば、アレが窓の外に立っていたこと。
そして例の、矢が真ん中でへし折れたこと。
そのすべてが、合点がいかなかった。
なぜそんなことが、可能なのか。
もちろん間違いなくアレの仕業と断定できるものではない。
矢に関して言えば最初に思った矢による撃墜を、見えない角度で見ていない誰かが行ったものなのかもしれない。
窓の外も、実際は見間違いか梯子が立てかけられていたか窓の桟にでも足を引っ掛けていたのかもしれない。
動かないと思っていた足は、実際は騙していたのかもしれない。
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