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ⅩⅤ/不自由②

2020年10月9日

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目次
この記事を書いた人
青貴空羽

小説家にして極真空手家。
更に2年間の英国留学不治の病うつ病になった経験、オタク文化を発信する為ブログTwitterYouTubeを始める。

Twitter:@aokikuunovel

本編

「だから最初から、大人しく背中を流されればよかったんですよー」

 背中をごしごしと擦られながら、ベトはぐったりしていた。
 後ろには再び巻いてもらったタオルが、プライヤの胸元から下半身までを覆っている。

 なるべくさっき顔全体で味わった感触を思い出さないようにと、ベトは目を瞑る。
 じゃないと身体の方が反応してしまう。
 こんな鳥頭女相手に、それはもはや屈辱だった。

「……これはせんせいの指示か?」

「違いますよー、わたしの意思でーす」

 無邪気な声だ。

 思えば最初会った時から、ずっとこの調子だった。
 そう考えれば、この暗い時代にこんな声を出す女――というか女の子もいたのかと少し感心する心地になり、ベトは少し話をしてみようかという気にもなった。

 どうせ背中を流されてるわけだし。

「なんで俺みたいなのの、背中を流そうなんて気になった? 金か?」

「お金要りません、わたし神に仕える乙女なんですよー?」

「っへぇ、要らないときたもんか。じゃあなにが目的だ?」

「目的ですかー? お兄さんのお背中流すことですけどー?」

「ん? ご主人さまじゃなかったのか?」

「え、なにがですかー?」

 ハハ、とその会話にベトは笑う。
 そうか、そうだな。
 確かに瑣末事だ。

 ベトは少し楽しくなってきた。
 頭空っぽにして出来る会話は、アレに出会って以来なんだか久しぶりな気もした。

「俺の背中流すのが目的か。なんだ、俺の背中ってそんなに流したくさせる背中だったのか?」

「いえー?」

「ん? 違うのか?」

「はい、単にお兄さんが、哀しそうな色をしてたもんでー」

「…………は?」

 振り返る、首だけで、思わず。
 プライヤはニコニコと、最初に会った時と同じ笑顔をしていた。

 直感。
 なにかがおかしい。

 微かな違和感。
 哀しそうな色、だと?

「……色って、どういう意味だ?」

「えー? どういう意味……って聞かれても、なんていうか紫っぽいっていうか」

 要領を得ない。
 ベトは数秒考えて――なぜかはわからないが、プライヤに背中を向けたまま自由になる右手をその首元に、持ってきた。

 なにも考えず、その首を絞めるような形で。
 ほんの数ミリだけ、隙間を作って。

 プライヤの動きに、変化はない。
 ニコニコと、こちらの背中を擦り続けている。

 その瞳の色に、核心のようなものを得た。

「お前……なにが、視えてる?」

「みなさんの、心ですかねー?」

 しばし、沈黙。
 ずっと続いていた背中を擦る動きが、止まる。

「さーお背中流しますねー?」

「――あぁ、頼むわ」

 ばしゃー、とお湯がかけられる。
 それに、スッキリした気持ちになる。

 肩を回す。
 自分では手が届かない所を洗ってもらうというのも、悪くないものだった。

「どうですかー?」

「あぁ、悪くないな。悪かったな、わざわざ」

「いーえ、またどうぞー」

 笑顔で言って、プライヤはしずしずと後ろに下がっていく。
 それをベトは見送り、

「……おい」

「はい?」

 一時停止したプライヤに指通りがよくなった髪をかいて、

「あのさ……なんであんたは、生きてる?」

 思わず、といった感じで投げかけていた。
 まだ頭に神父――オレアンせんせいとの会話が残っているのかもしれない。

 それに、アレとの問答も。
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