ⅩⅣ/悪魔憑き⑦
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本編
ベトの問いかけに、オレアンはやはり真っ直ぐに答えた。
「悪魔憑きは、あるさ。そりゃもう、ひとが風邪ひくのと同じくらい当たり前にな」
とくん、とベトの心臓が鳴った。
悪魔憑きは、ある。
ベトはオレアンから自分の杯に視線を移した。
ゆらゆらと、赤くなり複雑な顔をしている自分が映っていた。
それを一息で、飲み干した。
「いい飲みっぷりだな」
ニヤリと笑って、オレアンは次の一杯をついだ。
こんな風に次々つがれては、もう今日はダメだなとベトは思った。
観念して、杯を差し出す。
注ぎ終わってからオレアンは自分の杯を掲げ、
「悪魔憑きは、昔から教会側の厄介事の一つだ。ある日突然、ある人物の人格が変貌し、周囲に危害を及ぼす。多重人格に近い。だが決定的に違うのが、それが――」
「超常現象を伴う、」
ぼそり、とベトがオレアンの言葉を引き継いだ。
それにオレアンはおや? とベトの顔を見て、
「……でしたっけ? あんま覚えてないっすけど」
にかっ、と快活に笑う。
それにオレアンにニヤっ、と笑い返し、
「だな。まあ超常現象とは堅い言い方だが、要は普通じゃあり得ないようなこと、ってとこだな。たとえば絶叫をあげたり、大人しい女性がいきなり口汚く罵ってきたり。まあこの辺りならまだ理解できる。しかしおれが参加した悪魔払いの中では、突然吹雪が起こされた事態があったな」
ぴくん、とベトは反応する。
吹雪?
そんなもの、ひとで起こせるわけがない。
間違いなく偶然だ。
そう言いたくなって、しかしアレのあの弓と夜のスバルとの会話を照合して、
「……出来るんですか、そんなことが?」
「悪魔になら、出来る」
ベトはゆらゆらと聖水を揺らし、
「悪魔に、ですか」
「そうだな。悪魔憑きとは、文字通り悪魔に心身ともに乗っ取られた状態を指すからな。その悪魔が行使すれば、そりゃ出来る」
少しだけ口をつけてから、
「悪魔なんて、いるんですか?」
「いるさ」
疑問はすべて一言で片づけられていく。
肯定肯定肯定。
だが、それはベトにとってまるで別の世界の話だった。
「どこにいるんですか?」
「ここではないどこかだな」
「……どうすれば会えるんですか?」
「手順をきちんと踏めば会えるな」
「……誰にでも?」
「そう聞いている」
応えているようで、その答えはどうもはぐらかされているように実感のないものだった。
ベトは酒を煽る。
どうもオレアンといえど、一応は神父。
こちらの言葉を煙に巻いて神秘然と見せることはもはや職業病になっているらしい。
単刀直入に聞いてこれならば、仕方ない。
神父と迷い子よろしく、相談の体を取ろうとベトは決めた。
「……俺の知り合いが、悪魔憑きかもしれなくて」
「ほう」
さして驚いた様子もなく、オレアンは答える。
この話が始まった時点で、それぐらいは予想していたという感じだ。
気心が知れているとこの辺りが楽でいいとベトは思う。
「悪魔憑きかそうじゃないかって、見分ける方法ってあるんですか?」
「難しいな」
またも迷いなく一言、杯を豪快に煽る。
さらに手酌で注ぐのを見て、ベトはもはや何杯目かを数えるのをやめた。
バカらしい、というか頭回らないし。
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