第65話「怒られた子供」
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本編
「入ったサークルが悪かったんだ。……いや、よかったのかな? あいつ、大学に入って勢いに押されて、一番最初に勧誘されたサークルに入っちゃってね。そのサークル、名前は『フル・ボトル』っていうんだけど、活動内容は合コン、飲み、カラオケ、ボーリングの、いわゆる遊びサークルでね。そこでの活動の数々が、やつに言わせると『今まで質実剛健の生活しか知らなかったオレには、青天の霹靂のカルチャーショックだった』らしくてね。いやもう日本語と英語がチャンポンして意味わかんない感じなんだけど……で、それ以来あんな感じになったらしいんだ」
彼女は黙って話を聞いていたが、その目にはどこか遠くを見るような、考えている様子が窺えた。
……でもね。
実はこの話には、続きがあるんだ。
あいつ、父親と上手くいってないらしいんだよね。
以前、切間が珍しく女の子に振られて僕の部屋にやってきた時のことだ。
日本酒の一升瓶をあけながら話を聞いてやっていたら、だんだん弱気になっていった切間が、訥々と家の話も絡めだしたのだ。
――実はよぉ。
そう語る切間の顔は、怒られた子供のように弱気だった。
最近オレ、道場には週一しか顔出してなくてさぁ。
元々は週五の三時間づつやってたからさ、親父それで、めちゃくちゃ怒ってんだよねぇ……『そんな風にならせるために大学にやったんじゃない!』ってさぁ。
でもさぁ、オレ、高校までずっと疑問に思ってたんだぁ。
このまま親父が望むままの人生送ってていいのかな、って。
で、大学入ってフル・ボトルに出会って人生観変わったんだよねぇ。
あぁこんな自由な世界があるんだ、って。だから、今のオレの生き方っていうのはさ、流されてるとかじゃなくて自分で選んでんだ。
だから、間違ってないと思う。
でもさ、親父も失望させたくないじゃん?
親父に、嫌われたくなんか、ないじゃん?
オレ、実際どうすりゃいいんかなぁ~?
そう呟いて天井を見上げる切間に、僕はかける言葉が見つからなかった……。
「あんなんでそんな凄い剣道場の跡取り息子だなんて、詐欺だよね。でもまあそのせいか、結構芯の方はしっかりしてるんだけどさ」
遠い記憶の言葉を意識の底に沈め、彼女との話を再開する。
「かく言う僕ん家も、家は空手の道場やってたりするんだ。それに大学では写真部に入ってるんだ。――ていっても、友達に頼まれて名前だけ貸してるだけの幽霊部員状態なんだけどね。暗戸さんって、サークルには入ってないの?」
首を横に振る。
「そっか」
そして視線を前に戻すと、目当てのアクセサリー屋の前に到着していた。
「あ、ここだよ」
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