#33「バベルの塔」

2020年4月4日

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 心細いのは、ぼくよりも彼女方かもしれないと思った。

 首都高に入る。
 車の動きが、今までよりも全然速い。
 周りの車も競争でもしてるみたいに、びゅんびゅん追い越し、こちらもまた別の車を追い抜いていく。

 それは今まで見たことがない不思議な光景だった。
 なにかがなにかを、追い越していくなんて。

 みんな一緒じゃ、ないなんて。

 道中ぼくは運転手と、様々な会話をした。
 いやそれは少し表現が違うか。

 運転手の話に、なんとかうまい具合に相槌を打っていた。
 というか打とうと四苦八苦していた。
 それにより外の世界のひととの交流の仕方と、成り立ちを学んでいた。対人スキルというのも、案外無駄ではないと思えた。

 そして驚きと戸惑いと感動に追い立てられるようにしながら、ぼくたちのが乗るタクシーは目的地に、到着する。

 ぼくは会話の終わりを悟る。

「――というわけなんですよ、ははは」

「へぇ、入院ってのも大変なんですねぇ……と、着きやしたよ。3770円になりやす」

 高っ、と思わず声が出そうになった。
 話には聞いていたが、これほどとは。

 両親がなにかの時のためにと渡してくれたお金のかなりが飛んでしまうと渋りたくなったが、背に腹は代えられなかった。

「はい、まいど。またのご利用をー」

 運転手の投げやりな言葉を背に、ぼくたちはそこに降り立った。

「……ここが、」

 ぼくは思わず呟いた。

 その場所は、それこそ見上げるような近未来的な建物が聳え――る、"予定地"だった。

 東京スカイツリー。
 着工から三年半もの期間を要して、来年の春に完成予定といわれ、完成すれば日本最高度の建物になるといわれている。





 だがもちろん、今は未完成という話だった。
 だからぼくの頭にここにくるという考えはなかった。

 予想ではむき出しの鉄筋コンクリートが幅を利かせて未だ塔の体をなしていないくらいに思っていたし。

 しかし、違った。

「……もう立ってるじゃんか」

 既にスカイツリーは、そこに屹立していた。
 見上げる、という表現はこういう時に使うのだろう。

 思い切り背を逸らして、アゴを上げて、目を上に向けてもなお、てっぺんが見えない。
 こんなものがあるということそのものが、ぼくには天変地異の衝撃――というのは、さすがに言い過ぎか。

 それでもバベルの塔という単語を思い浮かべるくらいには、やっぱり全身で感動していた。

 スカイツリーの前には、川があった。
 そして本体の周りには、それこそ鉄筋コンクリートむき出しの作りかけの施設が囲んでいた。

 商業施設なのだろうそれが、ぼくにはまるで廃墟の街のように映った。
 作っている方にしてみればそちらの方がメインなのだろうから、そこまで完成して初めてひと段落。
 そのあとお披露目となるのだろうか?

 未完成のこの場所にわざわざ訪ねてくるひとはおらず、そして深夜ということもあって、周囲にひとの影は一切なかった。

 公開は、春を予定。

 ぼくにそれを見届ける時間は、ない。

「綺麗だな」

 意図せずぼくは、呟いていた。
 塔自体は出来ているといっても周囲はガラクタだらけで、未完成で、それは商業施設というのもおこがましい代物だった。
 ぼくが今まで見たことがないような、それは粗雑なものだった。

 だからこそぼくは、美しいと思えた。

 今までぼくの目の前に並べられるものは、すべてきちんと整えられた、完成品ばかりだった。
 そこにひとの手が加えられている形跡は見当たらなかった。
 おそらくは事実、機械の手によるものだったと思う。

 だけどこの目の前にある巨大なものは、確かにひとの手による温度が見てとれた。
 あちこちにある重機が、熱を伝えてくれた。

 それは神に迫るというバベルの塔のように、ぼくには映った。

「綺麗、だなぁ……本当、に」

 声が、こもる。
 頬を伝う熱いモノ。
 それに、気づく。

 ぼくは泣いているんだ、と。
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