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#24「欺瞞」

2020年10月7日

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目次
この記事を書いた人
青貴空羽

小説家にして極真空手家。
更に2年間の英国留学不治の病うつ病になった経験、オタク文化を発信する為ブログTwitterYouTubeを始める。

Twitter:@aokikukose

本編

 ぼくにはその意味が、最初理解出来なかった。

「棚多さん……?」

「……お嬢ちゃんかな?」

「わたしの名前は、マヤ」

「そうか……そうですか」

 棚多さんは、穏やかに微笑んでいる。
 それにマヤは、無表情で応えている。

 二人の間でだけ交わされるやり取り。

 病に冒された老人と。
 若く美しい少女。

 それが月夜に、見つめ合っている。
 病室で。

 世間で言う常識からかけ離れた空間で。
 それがぼくに、なんともいえない感覚を与えた。

 感傷?
 思い入れ?
 懐かしさ?
 違和感?

 どれもそうであり、どれもどこか違う気にさせた。

「マヤさんは、成海さんとどうするつもりですかな?」

「わたしは遼のことが、好き」

 前置きもなく告げられたその事実に、身体の外と内側がひっくり返ったような錯覚を味わった。

 衝撃とも違う、柔らかな――波紋が広がるようなその、言葉。
 ただじんわりと、身体に、心に、広がっていった。

 これが、好きっていう――

「なら、どうするつもりですかな?」

「遼のしたいようにする」

 3秒から5秒ほどだろうか、棚多さんはマヤからの答えに沈黙したあと、ぼくの方を見た。

「成海さん」

「なんですか?」

 自然と言葉に、動揺は現れなかった。
 この状況下に、身体の方が先に適応しているということだろうか?
 むしろそれは心の方が先だろうか?

 どちらでもよかった。

「あなたは……」

 そして棚多さんは、言葉に詰まった。
 どう考えても、それはそう見えた。

 思いのままに言葉を紡いでいた彼がそんな風になったのは、おそらくは初めてのことだろう。
 ぼくは黙って、次の言葉を待った。

 棚多さんは視線を切り、窓の外を見た。

 月が煌々と照らす、外の世界を。





「今晩は月が、美しいですなあ」

 ぼくもその、視線を追う。

「そうですね。綺麗ですね」

 欺瞞だった。

 ぼくはほとんど、月なんて見ない。
 言われたから、そちらの方を向いているに過ぎない。
 だいたい普段はカーテンがかかっていて、彼女が来たかどうかの目印ぐらいにしか思っていない。

 だけどそれでも。

 それを差し引いてもなお。

 今宵は月が、美しいモノに感じられた。

「成海さん」

「はい」

「あなたは、マヤさんと……」

「なんですか?」

「マヤさんと、どうなさるおつもりですかな?」

 考えたこともない。

 というより考えようもない。

 必然、答えようもない。

「……わかりません。というより、ぼくには先がありません」

「わかっていらっしゃいますか、な?」

 どうとでも取れる質問。

 どう答えるのが正解なんだ?

「――彼女のことなら、少しは」

「それでも、なお?」

「いや……というより、ぼくにはその価値が、あるのかどうか」

 探り探りの会話。当人同士でしか――というより当人同士ですら、よくわかっていないだろう。
 こんなやり取りに意味があるのかはわからなかった。

 だけどこれは、本気と本気の言葉のぶつかりあいなのだと魂で、理解した。
 だからぼくも、本気で応えた。

 棚多さんは少し考えたそぶりを見せたあと再び彼女を見て、

「あなたは成海さんのしたいようになさると言いましたかな?」

「そう」

 彼女は動かず、表情もすら微動だにさせず僅かな言葉で応えていた。

 それこそ最初に見た、絵画のように、美しく。

「なれば、あなたの望みはなんですかな?」

 マヤが初めて、言葉に詰まった。

「…………な、」

 と言ったような気がした。
 だけどさ、かもしれない。
 とりあえずあ行であることは間違いなさそうだった。

 マヤは一旦言葉を切り、

「一緒に……」

 なんて端的で、そして様々な意味が含まれた言葉だろうと思った。
 そしてそうであるならば、ぼくはそうしなければいけないだろうと思った。

 ぼくはあまりに一方的に、彼女から貰い過ぎた。
 だからそれに応えるためなら、なんでもするつもりだったから。

 棚多さんは、たっぷり十秒は経ってから、こちらを見た。

 万語を費やしたい顔をして、みたび夜空の月を仰いだ。

「よい、月夜ですな」

 ただ一言、そう告げた。

 そして次の日ぼくに、発作が起きた。
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続きはこちらへ! → 第3章「memory」

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