第54話「ガンシューティング」

2020年4月4日

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「――――」

 思考が、凍りつく。
 体も硬直する。

 今見たものの意味がわからない。
 意味がわからないと動きようがない。

 だけどじっと自動ドアを睨みつける彼女に急かされるように、足が勝手にマットを踏んだ。
 ガラス戸が左右に開き、多少過剰なくらいの冷気が全身を包む。

 クーラーが効いてて、すごく涼しい。
 生きた心地を思い出し、気持ちもいくらか軽くなった。

 彼女の方を見る。
 まるで子供だった。
 口が半分開いた状態で固まり、目線だけがあっちいきこっちいきと目まぐるしく動いていた。

「……それじゃ、何かやってみる?」

 彼女の頭が高速で二回振られる。
 ばっさばっさと長い髪が大きくたわんだ。

「じゃあ、まずあのガンシューテングからやってみよっか?」

 一瞬の間もおかず頭が振られる。
 小動物のような機敏さだ。

 ……カワイイかも。
 思わず顔がにやける。

 全身黒の不吉な格好と、普段の徹底した愛想の無さと比べ、今のキョロキョロ、ちょこまかした動きのキュートさが見せるギャップは、かなり僕のハートを射抜いた。
 ……来て良かったかも~。
 ヘラヘラしながら、今までの苦労など忘れて今日初めてそう思った。


 まずはガンシューティングを一緒にやってみた。

 恐ろしく下手だった。
 初めてだったのだろう、全く見当違いの場所を撃って敵の弾を躱すことも出来ず、あっというまにゲームオーバーになった。
 しばらくぽかんとした顔をして呆けていたが、思い出したかのように意気込んで次の百円を投入して、コンティニューしていた。

 僕も、自分でも撃ちながら片手で説明が書かれてる筐体の上の張り紙を指差してやり方を教えた。
 コンティニューする度に、彼女の顔は険しくなっていった。
 ぴりぴりと緊張感が作り出されていく。

 僕から見てもその集中力は凄かった。
 やり方を読んでから撃ち、躱し方を覚え、あとは実戦で要領を掴む。
 何かにとり憑かれたかのように彼女は打ち続け――六百円分くらいコンティニューした頃には、上級者のはずの僕とすっかり立場が入れ替わっていた。

 しまいにはハイスコアを更新してしまっていた。

 終わった後、彼女はクールに筐体の上のホルスターに銃を投げ込んだ。
 すっげぇ、と思った。

 その後、カーレース、太鼓叩きゲームとやり続けたが、そのどれにも彼女の集中力は遺憾なく発揮され、その真剣さに僕は若干圧倒されていた。
 ほとんど初デート同然の僕にとって、デートといえばもっと和気あいあいと楽しくのんびりと過ごすものを想像していた。

 しかし、このデートはまるで宿敵同士の決闘のようにさえ感じられる。
 もうちょっとほのぼのとしてもいいんじゃないのか?
 それに何より気にかかったのが、僕たちの間には一切――会話がなかった。
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